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鳥集 徹
2017/10/23

群馬大学病院の手術で8人死亡 なぜ執刀医を止められなかったのか

鳥集 徹が『大学病院の奈落』(高梨ゆき子 著)を読む

『大学病院の奈落』(高梨ゆき子 著)

「腹腔鏡手術後八人死亡 高難度の肝切除 同一医師が執刀」(「読売新聞」二〇一四年十一月十四日付朝刊)

 群馬大学病院で肝胆膵外科手術を受けた患者が相次いで死亡していた問題は、同紙のスクープによって公になった。一五年度の新聞協会賞を受賞した同紙取材班のリーダーが、紙面では伝えきれなかった内幕や背景を、丹念な取材で丁寧に掘り下げたのが本作だ。

 最終的に日本外科学会の調査対象となった死亡例は開腹手術も含め五十例で、そのうち三十例が同一医師の執刀によるものだった。死亡例を数字で見ただけでは、他人事のようにしか思えないかもしれない。だが、本書で描かれる死亡までの経過は、どの患者・家族も苦痛に満ち、惨(むご)たらしい。万が一とは言え、手術を受ければ誰もがこんな恐ろしい目に遭うリスクがあると知るだけでも、本書を読む意味がある。

 執刀医のことも、何人もの患者の命を奪いながら、平然と手術を続けられるモンスターのように考えがちだ。だが、取材で浮かび上がった姿は意外にも、「物静かで温和、要領のいいほうではないが、ひたむきに努力する勤勉な人間像」だったという。にもかかわらず、なぜ彼の稚拙で無謀な手術を誰も止めることができなかったのか。

 その要因と指摘されている、「白い巨塔」さながらの教授同士の勢力争いや、功名心に駆られる外科医の心理、安全性・有効性評価の倫理的手続きに対する意識の低さなどは、実は同大のケースに限ったことではなく、医療界全体に根深く蔓延(はびこ)る問題でもある。

 大学、学会、医学界、厚労省、様々なレベルで再発防止の取り組みがされているが、それを表面的なもので終わらせないためには、この問題から多くの医師に学んでもらう必要があるだろう。「被害者」になりうる一般読者だけでなく、とくに医学生や研修医に、自分が将来「加害者」にならないためにも、本書を読むことを強くお勧めしたい。

たかなしゆきこ/読売新聞記者。お茶の水女子大学卒。1992年入社。山形支局、社会部などを経て、医療部へ。群大病院の腹腔鏡手術をめぐる一連のスクープで、2015年度新聞協会賞受賞。

とりだまりとおる/ジャーナリスト。同志社大学大学院修士課程修了。主に医療問題に取り組む。著書『がん検診を信じるな』など。

大学病院の奈落

高梨 ゆき子(著)

講談社
2017年8月25日 発売

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