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「勉強中に包丁の刃先を母に」 「夜中のベランダで『虐待です!』と叫び声を…」 加熱する中学受験、“教育虐待”に悩む母たちの“叫び”

「勉強中に包丁の刃先を母に」 「夜中のベランダで『虐待です!』と叫び声を…」 加熱する中学受験、“教育虐待”に悩む母たちの“叫び”

2021/06/11
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「将来は弁護士に」義両親からかけられた強い期待

 首都圏郊外在住の友人、加奈子(仮名、44歳)は、今年小学5年生になる耕太君(仮名)と、銀行員の旦那と3人暮らしだ。旦那の父親は弁護士で、孫の耕太君こそは弁護士になってもらいたいと、妊娠中から、かなり強い期待を義両親にかけられていた。

 耕太君が地元の超進学塾に通うようになったのは小学校2年生最後の春休み。あまり勉強が好きではない息子の場合、早めに塾通いを始めたほうが得策と加奈子は考えたのだという。初めての春期講習で出された宿題は、難易度もさることながら、宿題のボリュームが半端なかった。加奈子は耕太君に付きっ切りで、毎日6時間かけ、翌日の授業の宿題を終わらせた。

「小学2年生の子に与えるには尋常じゃない量だった。でも、この量の多さこそ、宿題をやり切れる子だけがこの塾で生き残れるという、塾側からのメッセージに違いないって、思ったの。もちろん息子は途中で何度も泣き出したけど、有無を言わせず取り組ませたわ」

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 まだ2年生の耕太君にとって、これは相当なストレスだった。

「春期講習も終わる頃だったと思う。ついに息子が家を飛び出したの」

「虐待だから警察に通報する!」と受話器を取り上げ…

 その日は日曜日で、明日の塾に備え朝から宿題をしているときだった。息子が突然、靴を履いて家を飛び出したのだ。2時間たっても帰ってこない。彼女の自宅のすぐ前は、大型トラックが頻繁に往来する国道が走っている。交通事故にでも遭わないかと心配になりだしたころ、ふらっと耕太君が帰ってきた。どこに行っていたか加奈子が問い詰めると、「〇〇スーパー。駐車場の前に自動販売機があるから、下にお金がおちていないか探していた」。お金があれば電車にのってもっと遠くまで行ける、耕太君はそう思ったらしい。

 耕太君の抵抗は家出だけにとどまらなかった。宿題を強要し続ける加奈子にブチ切れ、夜中のベランダに出て「虐待です!」とわざと近所に聞こえるように叫び声をあげたこともあった。耕太君自ら、「これは虐待だから警察に通報する!」と受話器を取り上げ、本当に110を押し出したときもあった。「耕太が“1”を押したところで、あわてて受話器を取り上げガチャンって切ったけどね」と加奈子。

 あるときは勉強中に突然キッチンから包丁を取り出し、加奈子のほうに刃先を向けてきたこともあった。その後、家出は複数回続いたという。