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「県警VS暴力団 刑事が見たヤクザの真実」より #4

2021/08/24

source : 文春新書

genre : ニュース, 社会, 読書

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 同年11月、暴力団対策を検討するためプロジェクトチームが結成され、春から鑑識課長を務めていた私は、わずか8か月でその職を解かれ、刑事部参事官という肩書でプロジェクトを担当した。その後、県民、事業者、行政が一体となって暴力団排除を進めるため、暴力団排除条例を検討するプロジェクトチームが別途立ち上がり、日本初となる条例の施行に結びつく。

 平成21年3月、捜査第四課内に北九州地区暴力団特別捜査室が設置され、私は参事官という肩書に加え、この特別捜査室を担当することになった。北九州地区の暴力団といえば工藤會をおいてほかにない。実質的な「工藤會対策課」の誕生である。

全国初の暴力団排除条例施行

 平成22年1月、県警の刑事部から組織犯罪対策部門が独立し、「暴力団対策部」が設立された。

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 また、暴力団捜査を担当していた捜査第四課が、主に工藤會を担当する北九州地区暴力団犯罪捜査課と、それ以外を担当する暴力団犯罪捜査課とに分かれた。県警が工藤會対策を最重要視した結果だ。

 私は、北九州地区暴力団犯罪捜査課(北暴課)の課長を命ぜられた。

 同年4月1日、全国で初めて福岡県において、暴力団排除条例(暴排条例)が施行された。

 暴排条例は、工藤會や道仁会など県内暴力団が、県民等に多大な脅威を与えている福岡県の現状を背景に、暴力団排除の基本理念を定め、福岡県や福岡県警による暴力団排除の基本的施策を規定している。

 基本理念として、その第三条で「暴力団が社会に悪影響を与える存在であることを認識し」「暴力団の利用、暴力団への協力及び暴力団との交際をしないことを基本」とすることが定められた。暴力団対策法よりも更に踏みこんで、暴力団は社会にとって「悪」だと明確に規定したのだ。そのうえで県民や事業者が暴力団員等に利益を供与したり、暴力団の威力を利用すること、暴力団員等が利益を受けることを禁止した。

平成3年以降の「暴力団」「準構成員等」の推移

 警察に対しては、市民等に対し必要な保護措置を講ずることを規定している。

 また、中学生、高校生等に対し、暴力団への加入や暴力団による犯罪の被害を防止するための教育等の措置、具体的には、現在、福岡県内で行われている暴力団排除教室の基本となる条文も設けられた。

 そして施行後は、幼稚園、学校等から200メートル以内の場所に暴力団事務所を新たに設置することが禁止された。

元暴力犯刑事への襲撃

 暴排条例の施行後、私は暴力団対策部の副部長となり、平成25年3月に久留米警察署長として異動するまでの4年間、引き続き工藤會対策を担当した。

 この4年の間、北九州市を中心に暴力団によると見られる襲撃事件が30件ほど発生し、それはすべて一般市民や企業を狙ったものだった。

 その中の一件に、元暴力犯刑事への襲撃があった。平成24年4月、元県警警部H氏が工藤會組員から銃撃され重傷を負ったのだ。H氏は暴力団捜査の大先輩であるとともに、退職前には北暴課の班長として、私を補佐してくれた。H氏は長年、工藤會対策に従事し、工藤會の主要幹部らを多く知っていた。トップである総裁・野村悟とも対等に話ができる数少ない捜査員だった。