文春オンライン

「1点取られるのを嫌がっただろ?」「あそこに投げておけば全部アウトになる」竜のエースが見た監督・落合博満の“何がそんなにスゴいのか”

落合竜のエースを背負った男・吉見一起インタビュー #1

2021/10/30
note

「あそこに投げておけば全部アウトになる」

――落合塾のような感じですね。

吉見 そうそう、僕の中では財産です。普段、話の中で特定の選手の名前は出ないんですけど、唯一、名前が出たのがヤクルトの青木(宣親)さん。「青木は○○に投げておけば全部アウトになるよ」と。青木さんは現役なので詳しくは言えないんですけど、その通りに投げたら本当に抑えられたんですよ。

――すごい。

ADVERTISEMENT

©文藝春秋

吉見 それ以来、「抑えられるときはこうだな」「抑えられないときはこうだな」とバッターの雰囲気が見えるようになり、洞察力や観察力が大事だと思うようになりました。

 そう思えたのは10年頃で、ちょうど僕も自分の中でモデルチェンジをして、「速いボールを投げたい」という欲が消えたからだと思います。「頭が良くないと野球はやっていけない」と思うようになって、よく人を見るようになりました。落合さんからもそういうことを言われたと思います。

2010年、第60回プロ野球オールスターゲームに選ばれた吉見氏 ©文藝春秋

――吉見さん自身の変化と、落合さんの言葉を聞くタイミングが合致したんですね。

吉見 そうだと思います。落合さんだけではなく、いろいろな人の言葉に対して、自分からアンテナを張って一言一句、キャッチするようになりました。

――落合さんの言葉って、自分から聞きに行かないといけないものなんですか?

吉見 ユニフォームを着ているときの落合さんはまったく話してくれません。他人みたいに扱われます。そもそも、みんなに何か話すことがないので、自分から行かないと話もしてくれないんです。

©文藝春秋

――ミーティングで選手に話をすることはなかったんですか?

吉見 ミーティングに出たことないんじゃないですかね。キャンプ初日のミーティングで少し喋るぐらいで、それもすごく簡潔なものでした。人づてに聞いたのですが、落合さんは「プロは結果の世界」と考えられていたようで、朝まで飲んでいてもいいから結果を出せ、と。あとは何も言わないんです。僕はそれが当たり前だと思っていましたし、やりにくいと感じたことはありませんでしたね。