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勝った日も負けた日も歌い続けて16年、オリックス球団歌「SKY」誕生の舞台裏

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/11/06
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 君の声よ遥か届け 夢追い人が行く

 遂に夢追い人達がまさに夢の先へ辿り着こうとしている。「SKY」を手がけて16年、この歌の歌詞の世界を現実の世界の選手達が越えて行こうとしているのは何だか感慨深く、街中で流れる「SKY」が何やら自分達が作った歌とは違う歌に聞こえてくる。それほどリーグ優勝とは格別なものなんだろう。

 実は「SKY」作曲のオファー、いや厳密には球団歌のコンペティションへの参加を打診された時、自分はそれはそれは強く拒否をした。音楽家冥利、野球ファン冥利に尽きる事なのだから意外に思う人も多いかもしれない。

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 理由は色々と複合していたのだが、何より「球団歌」の特性上、前向きで、何かを鼓舞して、勇ましく、且つ逞しく。我々ロックバンドが表現するにはあまりに表現の自由度が狭く、ドラマ性に欠けるジャンルであるのだろうと誤解していたからだ。野球ファンである自分には「聴くための音楽」であり「創り、そして演奏するための音楽」ではないのだろうと。そんなものは、職業作曲家のテリトリーであり、我々には遠い世界の物語だと思っていた。重複になるがやはり、大きく誤解していたのだろう。そう、少々鼓舞しても勝利と栄光に辿り着けない。声が千切れる程歌っても届かない。そう、重複の重複になるがしっかり誤解していたのだ。野球というドラマを歌うのだから、そんなに簡単な事じゃなかった。

一雫じゃ納まらなかった我々の泪 

 確かに当時、実際に曲を創り始めると自分でもびっくりする程アイディアは浮かんで来た。やはり幼少の頃より長くプロ野球を、いや、パ・リーグを見続けて来たからだろうか。我々MEGASTOPPERが創った「SKY」が新球団「ORIX Buffaloes」の球団歌に選ばれたと連絡を受けた時も、実は自分は何処かで「そりゃそうだろう」と言う何処から来たのか分からない、妙な自信に溢れていたのを覚えている。今にして思えばそんなものはスタートラインにすら立っていなかったからだろう。

 実際にスタンドで曲が流れた時、ファンの皆んなはどう感じるのだろう。他球団のファンはどうか。選手はどういう思いでこの曲に接してくれるのか。そんな事を考えながらメンバーと音符を重ねた時、初めて「SKY」はスタートラインに立ったのかもしれない。そして歌えど歌えど勝てない日々。心の底から歌ってもあと一歩が届かない。新たな球団ORIX Buffaloesと共に産声をあげたこの曲はそれから16年、ご存知の通り我々とそしてファンの皆んなと共に、ひたすら茨の道を歩む事になる。「一雫だけの雨が大河を写す」はずが、我々の泪が大河になる勢いだったのだから。 

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