この気持ちは、どこかで経験したことがある。そうだ、娘たちが大学への合格を決めた時だ。
夏のイベントで、文春野球コラムでもお馴染みの、えのきどいちろうさんから、こう聞かれた。「このままオリックスが優勝したら、オリックスファンはどうなるんですか?」。考えてみたけど、あまり想像できなかった。阪神ファンの人達なら、かつてあったように、多くの人々たちが街に繰り出し、久々の優勝を祝うのかも知れない。1985年、21年ぶりの優勝で、興奮したファンが次々と道頓堀川に飛び込み、ランディ・バースの代わりにカーネル・サンダースを胴上げして、やはり道頓堀川に投げ込んだのは有名な話である。それではそれよりも更に間隔が開いた25年ぶりの優勝で、オリックスファンは大阪や神戸の街に繰り出し、歓喜の声を上げるのだろうか。
でも、どうしてもそうなるとは思えなかった。優勝の瞬間にスタジアムに居れば、コロナ禍の下「やった!」と小さな声で叫んでガッツポーズをするくらいのことはするだろう。球場の周りの飲み屋では、規制さえかかっていなければ、あちこちで勝利の宴が繰り広げられると思う。でも、そこから先はどうだろうか。仮に道頓堀や梅田や三宮に集まったとして、一体何をするのだろうか。いくら考えても何も頭に浮かばなかった。
「よかった。本当に。安心した」
そして迎えた「その日」。既にオリックス自身が日程を終え、「他力本願」になっていた2021年10月27日、楽天・ロッテ戦が行われたのは仙台であり、既に大量の仕事を抱え込んだ筆者が、球場に向かう余裕はある筈もなかった。加えて、オーバーワークの為に体調も少し壊しており、この試合は素直に自宅のテレビで見守る事になった。
試合は見事な投手戦で、7回を終わって1対1の同点。当たり前だけど、茶の間からできることは何もない。これは優勝は持ち越しだな、そう思いながらぼんやりとみていると、8回裏に楽天が1点を取ってリード。おい、これはひょっとしてあっさり決まるんじゃないか。