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神戸の大学教授が思う「オリックスが優勝するために必要なこと」

文春野球コラム Cリーグ2020

2020/05/27

 新型コロナの朝は遅い。大学でも随分前からオンラインで授業が開始されているのだが、テレワークだから出勤する必要はないし、そもそも「三密」を避ける為に上層部からは出来るだけ研究室に行かない様に言われている。大体、授業と言ってもライブならともかく、オンデマンドなら、一日のうちいつ収録しても構わない。こうして仕事はずるずると夜へ夜へとずれ込むことになる。

 とはいえ、どんなに眠くてもいつまでも寝ている訳にはいかないので、眠い目を擦りながらベッドからはい出し、パソコンの電源を入れる。もう数カ月もこの状態だから、最初にやることは決まっている。メールのチェックである。一応管理職もどきなので、大学の事務から来ているメールを幾つか捌いた後、その他のメールにも目を通す。あれ、西澤さんからメール来てるやん。「次の対決は『どうやったらベイスターズ/オリックスが優勝できるか』という共通のお題でやりましょう」。ずいぶん、直球ど真ん中だな、いやこれは文春に頼まれて考え始めたけど、途中でお題を考えるのが面倒くさくなった奴に違いない。

1996年、オリックスの優勝シーン ©文藝春秋

 こうして朝遅くメールをチェックしていると、時々、変わったメッセージを目にすることになる。なになに「あなたの歌を聞いていつも勇気づけられています」。そうか、そういえば、前回のオンライン講義では、マイクを握りしめて歌ったもんな、やっぱりマイクを持つと歌うよな。いや違う。これは何年かに一度やってくる、あの「愛は勝つ」の大ヒットで知られるミュージシャンのKANさん宛の間違いメールだ。

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愛は信じるだけでもダメだし、伝えるだけでもダメだ

 KANさんの本名は木村和。和歌山の「和」と書いて「かん」と読む、命名したご両親の知性が感じられる名前である。因みに自分の名前は父が、漢和辞典を投げて開いたページの漢字から一文字選んだというから、一部自分の想像が入っているとは言え、ずいぶんな違いである。ともあれ、彼とは漢字こそ異なれ、音にすれば同姓同名の「きむらかん」なので、こうして時々、間違いメールが来ることになる。

 そうしてこのメールが来るたびに、自分の頭の中では必然的にあのメロディーが流れることになる。愛は勝つ、バブリーで直球ど真ん中だけど、いい歌だよなぁ。「どんなにこんなんでー くじけそうでも しんじることさー かならずさいごに あいはかつー」、とかもう毎年毎試合くじけそうなオリックスファンの為にあるとしか思えないだろ。京セラドームのライトスタンドなんて、毎年、沢山の人が信じすぎて祈りすぎて、南海電車に乗って高野山に行かなくても、多くの人がシーズン途中で悟りを開くくらいである。でも、待てよ。これまでの人生で、信じることで愛が勝ったことなどあったのか、いやない(反語)。

 こうしてどんよりとしたコロナ疲れの中で、とんでとんでまわってまわる、愛の水中花、いや走馬燈。今を遡ること45年前、小学2年生の時のIさんからはじまる自分の愛の遍歴は、思えば1998年のロッテも真っ青の、犬吠埼のはるか沖まで続く連敗街道だった。考えてみれば当たり前だ。当時はシャイな小学生だったので、女の子としゃべるのすらままならず、自分の愛は相手に伝わってすらいない。そう、信じるだけでは、相手はその愛の存在すら知らないのだから、勝つはずが無い。つまり、愛とは「伝えてなんぼ」の存在なのである。

 じゃあ、愛は伝えれば勝つのか。そう考えてもう一度、愛の走馬燈を回してみる。思い起こせば、中学生の頃の自分の愛は、どんなピンチでもいつも直球勝負だった。俄かに瞼に浮かぶあのわが青春の名場面。

ストレート 154km/h ファウル
ストレート 156km/h ボール
ストレート 156km/h ボール
ストレート 155km/h ボール
ストレート 155km/h 空振り
ストレート 157km/h ファウル
ストレート 159km/h 四球

 後35年ほど遅く生まれていれば、愛のコーディエと呼ばれていても不思議ではない。デッドボールになって怪我人が出なかっただけ良しと思うことにしよう。くそぉ、もう少しで三振とれたのに。

 さて、ここまでの考察で重要なことが幾つか分かった(突然論文調)。それはKANさんにはとても申し訳ないけど、愛は信じるだけでもダメだし、伝えるだけでもダメだ、ということである。どんなにライトスタンドで一生懸命信じて祈っても、それだけではこの23年間の繰り返しであり、傷つけ傷ついて、愛する切なさに、げっそりと疲れる人が増えるだけである。声を上げてチームへの愛を伝えることは勿論大事だが、伝え方が悪ければ、求めてうばわれて与えて9回裏にうらぎられるだけで、愛は必ずしも育たない。

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