まさに恐怖体験だった。

 若きエースとしての期待がかかる種市篤暉投手が春季キャンプ前の1月に体験した恐怖の1時間48分を振り返った。

「元々、大の怖がり。小学生の時に遊園地でお化け屋敷に入った時も怖さのあまり、入り口に戻ってドアを叩いて『出してくれ!』と、お願いをしたぐらいです」

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当時の驚いた表情を再現する種市篤暉 ©梶原紀章

後輩の藤原恭大に誘われ映画館に行くと……

 年が明けたばかりのある日の午後だった。同じ寮生で後輩の藤原恭大外野手に映画に誘われた。

「面白い映画があるので行きませんか?」

 トレーニングを終え、ちょうど何をしようかと考えていた時だったので了解し、一緒に寮を出た。タイトルを聞かされてもピンとこなかった。藤原は振り返る。

「種市さんは怖がりなので、内容を話したら行かないと思ったので、面白い映画としか伝えませんでした」

 今から見に行こうとしている映画のタイトルを聞かされたのは劇場に向かう途中だった。邦画のタイトルは『犬鳴村』。聞いた種市はそれでもピンとは来なかった。

「タイトルを聞いた第一印象はアクション映画かなあでした」

 映画館に到着するとだんだん疑念が湧き起こる。チケットを買った後、ポップコーンを買う列に並んだ。ふと映画のポスターが目に入った。そこにはなんとも不気味なトンネルが描かれていた。

「面白い映画という割には変なポスターだなあと思いました。タイムトンネルの類の話かなあと自分に言い聞かせました」

 ポップコーンを買う列を待つ間に沸々と胸騒ぎが湧き起こり、ついにスマホを手にした。検索をするとホラー映画である事が判明した。ただ、もう後の祭り。チケットも買い、ポップコーンとジュースも手にしている。そして2つ下の後輩に怒りをぶつけるわけにもいかない。「ジャンルはホラーですけど、あんまり怖くないです」と藤原が冷静に言ったことで逃げ出すことはもう出来なくなった。