コロナ禍にあって球音が絶えて久しい野球界。そんななかで賑わいを見せるのが野球解説者によるYouTubeチャンネルだ。その勢い、竜に翼を得たる如し。そんな熱い野球YouTube界に、2000年代中日ドラゴンズのエース、川上憲伸が新たに参戦。チャンネル名は自身の代名詞でもあった変化球名を用いた「川上憲伸カットボールチャンネル」だ。その立ち上げの狙い、YouTubeとの意外な関係性、そしてコロナ禍における野球界について話を聞いた。

©オグマナオト

野球少年が野球をもっと好きになれる手助けがしたい

――昨年から、解説者によるYouTubeチャンネル立ち上げが目立ちます。その状況をここまでどう見ていましたか?

憲伸 僕、もともとYouTubeはよく見るタイプなんです。だから、解説者のチャンネルはほとんど見ていますよ。とくに同級生の上原浩治、同じ徳島県出身の里崎(智也)君のチャンネルは気になりますし、元近鉄の金村(義明)さんのものもいつも面白く聞かせていただいています。

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――そのなかにあって、憲伸さんのチャンネル立ち上げは少し後発、といえるかもしれません。後発だからこそ意識したいこと、こんなチャンネルにしたい、というものは?

憲伸 ひとつにはやっぱり、新型コロナで先行きが見通せない野球界に、少しでも “明るい話題” “明るい解説”を提供していきたい、というのがあります。とくに野球少年に向けてですよね。大人の野球ファンにも楽しんでもらいたいのはもちろん、野球少年が野球をもっと好きになれる手助けがしたい。あとは、解説者YouTubeはトークものが多いので、何か体を使った解説や企画も今後はどんどんやっていくつもりです。

――先ほど、「YouTubeはよく見る」という話がありましたが、それは現役時代から?

憲伸 現役の頃からよく見ていたどころか、僕にとってYouTubeは“恩人”ともいえる存在なんです。YouTubeがなければ、僕はアメリカで野球ができなかったと思います。

――2009年からのアトランタ・ブレーブス時代ですね?

憲伸 あの頃は野球をしてるか、YouTubeを見ているか、くらいのヘビーユーザーでした。というのも、当時の僕は英語がまったく喋れなかったので、通訳がいないときは英語に頼らずともできることを探さなきゃいけなかったんです。そんなときにハマったのが、YouTubeでライオンを見ることでした。

――ライオン!?

憲伸 動物チャンネルみたいなのでライオンにハマったんです。闘争心やチームワークでは学ぶべきものがあるし、オスのだらしなさは反面教師にすべきだし(笑)。当時普及し始めたばかりのモバイルWiFiを契約して、ライオン動画を見つけたらずーっと見ていました。今でもライオンは大好きです。

――じゃあ、アメリカでのプライベート時間はYouTube頼みだったと。

憲伸 オフの時間だけでなく、本業の野球でもYouTube様様でした。メジャーは当時からデータ解析が盛んで、頼めば球団から相手チーム・打者の研究動画を見ることができるんですが、それも通訳を介してだと面倒なんです。そこで頼りになったのがYouTube。たとえば、ハンリー・ラミレス(当時フロリダ・マーリンズ)の対右投手の動画が見たいという場合、YouTubeでハンリー・ラミレスの動画を探して、「お、この投手、ちょっと俺に似てるな」というのを見つけて対策を練っていました。だから、今回のチャンネル立ち上げは、ある意味で僕からYouTubeへの恩返しでもあるんです。あのときありがとう、って。そのくらい、ライオンは本当に助かった!