離ればなれになっても、先輩と愛弟子の絆が切れることはなかった。これは、今季に投手主将を務めた広島・大瀬良大地投手(30)と高卒4年目右腕の山口翔投手(22)の1年間の軌跡である。

大瀬良大地 ©文藝春秋

「毎回俺のスマホに送って見せるように」

 師弟関係の始まりは昨年12月だった。大瀬良は、右肘の手術明けだったことで、オフ期間の拠点を例年のマツダスタジアムではなく2軍施設の大野練習場に置くことになった。主に若手が集まる練習場所に大瀬良が毎日訪れる。不振に迷い込んで20年は1軍登板のなかった山口にとっては、すがるような思いだった。リハビリ中とは承知の上で勇気を振り絞った。「大地さん、一緒に練習したいです」。その日から大瀬良が山口の師匠になった。

 チーム内で大瀬良の練習の厳しさを知らぬ者はいない。想像以上にハードなウエートトレや走り込みの連続に、19年オフに合同練習をしていた床田は「めちゃくちゃきつい」と言って、いつもの笑顔が消えたほどだ。お互いの練習の強度は異なるものの、基本的には同じメニューをこなす。2軍で厳しい練習に耐えてきた山口でさえも、大瀬良に付いていくだけで必死だった。

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 連日過酷な練習が続く中、大瀬良は山口を大野練習場から連れ出したこともあった。「三重に行くけど一緒にどう? 行って損はないから一緒に勉強しに行こう」。2人で訪れた三重県内の練習施設では、体格や筋肉量などを測定し、それに応じた練習をこなすこともできる。山口の数値を見た大瀬良は、やはりというような表情でうなずいた。「そんな体でよく投げてたな。もっといい球、投げられるよ」。

山口翔

 2月の春季キャンプが始まっても師弟関係は変わらなかった。山口だけでなく、手術明けを考慮された大瀬良も2軍スタートとなった。大瀬良は、全体練習が始まる90分前には球場に到着して患部のケアなどを始めた。すると、その姿を見た後輩たちも球場入りを早めて準備に時間をかけるようになったと言う。山口だけでなく、多くの若手にとっても大瀬良は特別だった。

 そして、2月中旬に大瀬良の1軍合流が決まった。12月から見続けてきた弟子のそばから離れることになる。それでも面倒は見続けると決めた。「投球フォームの動画を撮ったら、毎回俺のスマホに送って見せるように」。そう山口に伝えてから2軍キャンプ地の宮崎・日南を離れた。