1ページ目から読む
2/2ページ目

「面倒を見ると決めたからには、どんな状況でも助けてあげたい」

 山口から動画が送られてくれば、前回の動画をスクショして比較するなど自分なりの感想を伝えるようにした。あるときはオープン戦の登板直前まで相談に乗ったかと思えば、本番を5回9奪三振無失点で片付けて山口を驚かせたこともあった。

 しかし、師匠の願いとは裏腹に山口の状態は上向かなかった。三重を訪問した際に「このままだったらケガするよ」と伝えられた通り、今季は故障に苦しんだシーズンでもあった。山口は次第にネガティブ思考に陥り、冗談交じりに「既読がついてから、しばらく返信が来ないと“もう見捨てられたのかな……”とか思ったりします」と下を向くこともあった。

 もちろん、そんなことはない。大瀬良は「簡単な気持ちでアドバイスできないから、ゆっくり考えてから返信したい」と言っていたこともある。返信までにかかる時間の長さは、師匠の律儀さをよく表していた。

ADVERTISEMENT

「山口の方から一緒に自主トレをさせてほしいとお願いしてきた。僕もいいよと言って、面倒を見ると決めたからには、オフの間だけではなくて、シーズン中であろうと、どんな状況でも助けてあげたいと思った」

 決して、今季の大瀬良に周囲を気遣えるほどの余裕があったわけではない。開幕直後に故障で約1カ月間の離脱を経験。復帰直後は不調にも苦しんだ。そうした苦境も乗り越えながら2年ぶりに2桁勝利を達成するなど、投手主将として結果と練習姿勢でチームの見本になり続けた。

 一方の山口は2年連続で昇格機会が訪れず、師匠の奮闘をテレビ越しに見つめるしかなかった。それでも希望はある。今月8日に始まる秋季練習から1軍合流が認められた。アピール次第では、来春キャンプの1軍スタートもあるだろう。師匠から学んだ1年間の成果を見せる機会は残されていたのだ。2人の師弟関係は、まだ終わらない。

河合洋介(スポーツニッポン)

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2021」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/49592 でHITボタンを押してください。

HIT!

この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。