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「稽古はしません」「直前に集中して覚えます」茶道の先生を演じる樹木希林が“心からのお茶への理解”を諦めた“納得の理由”

『青嵐の庭にすわる「日日是好日」物語』より #1

2021/11/25

source : ライフスタイル出版

genre : エンタメ, 読書, 芸能

note

DVDで茶道を学ぶ

 帛紗を下から折り返すようにして帯から抜き取り、右手で角をとって帛紗を三角に広げ、両端を軽く折って、ポンと塵を打つ。それから帛紗を縦にし、指で屏風のように三つ折りし、それを二つに折って、さらに折り返す……。細く白い指が、まるで生きもののようにしなやかに動いた。

(できている……!)

 一緒にその手元を見ていた吉村さんが息を呑んだ気配で、私と同じことを感じたのがわかった。

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 樹木さんが「秘密の特訓」を受けていたことを、私たちはその日初めて知った。樹木さん本人から、「お茶を教えて」と頼まれた観世さんは、自ら改めてお茶のお点前を習い直して、樹木さんに特訓してくださったそうだ。

©文藝春秋

 樹木さんは自宅でも、茶道のDVDを使って自習していた。DVDは、冒頭にお家元のご挨拶があり、実技のお点前が始まるものだった。

「それがね、『あっ、今のところ、もう一度見たい』と思って、ちょっと前に戻そうと思うんだけど、うちの機械が古いせいなのかしら、ちょっと前には戻せないの。初めからもう一回見なくちゃならないのよ。またお家元のご挨拶から始まるの。で、またお点前のところで、『あ、今のところ、もう一回』と思うでしょ。そのたびに、初めから見なくちゃならない。私、お家元のご挨拶を何回も聞いて、すっかり覚えちゃったわ」

 と言って、樹木さんはふふふと笑った。