浅田美代子さんは、樹木希林さんの人生の、一番弟子だった。希林さんが、2018年に75歳で亡くまるまで、ずっと「ひとりじめ」にしてきた浅田さん。

 そんな浅田さんが希林さんとの思い出と、青春の日々を綴ったエッセイ『ひとりじめ』(文藝春秋)より一部抜粋して、2人の思い出を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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「人間観察」という名の悪口

 朝9時を過ぎた頃だろうか。テレビの音をBGMに聴くともなしに聴きながら、朝の身支度を行っていると、突然、電話が鳴り始めることがある。

「あの子、やったわね」

 電話の主は、希林さんだ。何をやったのかというと、「整形したわね」という意味だ。人間観察がライフワークである希林さんは、ワイドショーが大好きで、スタジオやVTRに映る女優の顔が以前のそれとは変化しているのを発見すると、嬉々として電話をかけて報告してくる。

浅田美代子さん ©文藝春秋

「ねぇ、8チャンネル、観てごらんよ。美代ちゃんはどう思う?」などと、朝からテレビを見ながら、電話口でああだこうだと何十分も話し合う。希林さんは、映画や舞台の感想を語り合うのと同じくらい、ワイドショーやニュースで様々な事件やゴシップを観て話すのが好きだった。そこに登場する強欲な人間たちを観察したり、業の深い人間が起こす事件について分析するのが好きだったのだ。

 私には希林さんほどの洞察力はないけれど、そういう話題にはノッていく性質である。

「だから、美代ちゃんと話すの好きよ。一緒に悪口を楽しめるじゃん!」

 私たちはワイドショーや映画をネタに、「人間観察」という名の悪口を楽しんだ。

「ワイドショーをただ見ているのではなく、表情とか立ち振る舞いをよく見てごらん。人間って面白いよ」

「あら良かったわね。親に感謝だわね」

 希林さんは、整形ネタが大好物。くだんのように、テレビで観たり、現場で会った人たちについて、“あの女優は、こっそり整形したかどうか”を話したりする。意地悪と言うよりは、これもまた、ありあまる人間への好奇心をそそられてのことなのだ。

 さらに希林さんがすごいのは、観察して裏であれこれ悪口をいうだけではなく、現場で出会った女優たちにも直接、聞いてしまうことだ。

 整形疑惑がある人ばかりではなく、どこからどう眺めても生まれつきの美人にも、「あなた美人ね。それは整形?」などと聞いて、ご本人たちを大いに戸惑わせていたという話を聞くと、苦笑いしてしまう。

「本人から天然物だって聞くと、『あら良かったわね。親に感謝だわね』って返すのよ」

「ねぇ、ばぁば。余計なお世話だからね」

 呆れてしまうと同時に、こういうところが希林さんらしくてチャーミングだなとも思うのだ。もはや、整形談義は、希林さんにとってコミュニケーションの一環だったのかもしれない。