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2021/10/02

source : 文藝出版局

genre : エンタメ, 芸能, テレビ・ラジオ

 思い返せば、樹木希林という人の核―役柄に向かう姿勢や、若さや通り一遍の美しさには憧れないという哲学は、20代にして確立していたのだと思う。

眉毛は絶対にいじってはだめ

 一方、そんな希林さんに出会った頃の私は、16歳の思春期で自意識全開。演出の久世さんに、「前髪をピンで止めろ」と言われているのに、その髪型が気に入らなくて、本番直前に勝手にそのピンをパッと取りはずして、カメラに向かうような女の子だった。

 希林さんとは対照的だけど、希林さんは、思春期の私の妙なこだわりや型にはまらないところも受け入れてくれていたように感じていた。

 十人十色の人間の人生を生きる俳優は、素材としての自分を大切にして、見た目に余計な手を加えずに、ありのままであるべきなのかもしれない。それは、何歳であろうとも、希林さんが信条としていたこと。整形や毛染めはもちろん、過剰なメイクも役のためでなければ、俳優にとっては必要でないというのが希林さんの考えだ。

 中でも、「ここだけは絶対にいじってはだめ」と言っていたのが、眉毛だ。一時期、世の中全体で、細い眉毛が流行ったことがあった。細く整えた眉毛に紫がかった口紅を合わせて、ちょっと不健康な感じに見せるメイクが人気を集めていた時代。流行りを楽しみたい派の私としては、もちろん挑戦していたのだけれど、希林さんには強く反対された。

©iStock.com

自分らしさを失わせてしまう原因

「ねぇ、美代ちゃん。その細い眉毛はなんなの? その口紅、何だか死人みたいに見えるわよ。みっともない。眉毛というものはね、影でその人の顔を表すものなんだよ。その人なりの表情を作ってくれるのに。細くしたら、台無しじゃない? みんな同じ顔になっちゃうよ」

 そう思っているからこそ、娘の也哉子ちゃんにも眉毛を整えることを許さなかったのだと。私も、「整えるのをやめなさい」と何度も言われたけれど、当時の私は聞く耳を持たなかった。細眉の流行が続いている間は、現場にいけば、担当のメイクさんが頼まずとも眉毛を剃ったり抜いたりして、細眉に整えてくれていたし、私自身もそれが良いと、その時は思っていた。しかし、経験を重ねた今ならわかる。希林さんの言う通りだ。たしかに、多少はボサボサでもその人の自然な眉毛は魅力的な表情を形作ってくれる。特に、目の表情は睫毛と共に眉毛が個性を加味してくれる。それに気付いてからは、自前の眉毛に戻そうとしたが、何度も抜いたり剃ったりしたせいか、同じようには生えてくれない。そういうと、希林さんはため息をつきながら諭してくれた。

「16歳の頃の美代ちゃんのもしゃもしゃ眉毛が可愛かったのにさ。本当に余計なことをしちゃうもんだよね」

 その言葉が今なら身にしみてわかる。もっと美しくなりたいと願う女の業の深さが、人を過度なメイクや美容、ダイエットや整形へと走らせる。けれどそれが往々にして、本質の美から遠ざかり、自分らしさを失わせてしまう原因になることも少なからずあるのだ。

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