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40歳でB級1組昇級 横山泰明七段は、なぜいま「東代表」「キャリアハイ」なのか

40歳でB級1組昇級 横山泰明七段は、なぜいま「東代表」「キャリアハイ」なのか

横山泰明七段インタビュー #1

2021/12/25
note

勝つと上がれるという一番を迎えると前日に眠れなくなった

「またやってしまうのかと思いました。自分でも、ここまで勝負弱いのは珍しいんじゃないかと思った」
 

 前期のB級2組で昇級を決めた直後のインタビューで、横山七段が残した言葉にはこれまでの苦労が現れていた。

 前期までの順位戦参加18期で横山の勝率を計算すると、7割を超える。安定した成績ながら、昇級にはわずかに届かないことが多かった。あと1勝で昇級を逃したのは6回に及ぶ。前々期となる第78期は、勝てば昇級の一番を2連敗で逃した。

 前期もラス前は勝っていれば結果的に昇級だったが、北浜健介八段に敗北。それでも最終戦に自力の目が残っていた。窪田義行七段に苦しい戦いを強いられるも、逆転勝ちを収めて最後の昇級枠をつかんだ。

 40歳で自身最高位のB級1組。それは棋士人生で2番目にうれしいことだった。1番目は20年間、不動のままだ。今後も変わらないだろう。

――順位戦初参加は、2004年度の第63期です。最終戦に勝てば昇級でしたが、平藤眞吾七段に敗れました。

横山 対局当日は食欲がわかず、ほとんど食べられなかったです。力負けしましたが、奨励会の延長みたいな感じで昇級を逃した大きさはわかっていなかったです。

 

――2006年度は第37期新人王戦で準優勝されていますね(優勝は糸谷哲郎八段。新人王戦表彰式で、「将棋界は斜陽産業。自分たちの世代で立て直す」と挨拶したのが話題になった)。

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横山 番勝負は特別なので自信にはなりましたが、2連敗にがっかりしたのを覚えています。糸谷さんはデビュー1年目で注目の人でしたし、20代半ばぐらいまでは年下に負けたくないと思っていましたから。

――次に順位戦で好機がきたのは、2007年度の第66期でした。

横山 これはかなりショックで、2回連続で勝てば昇級の一番を逃しました。ラス前の豊島さん(将之九段。2019年度の第77期に名人獲得)にプラス2000点はありそうな大優勢の将棋を逆転負け。最終戦の田村先生(康介七段)には、夕食休憩前に投了したんですよ。この頃から大きな一番に弱いなと思いましたね。

――そのあとも、順位戦で昇級のチャンスがきましたね(最終戦で勝てば昇級の一番を逃したのが第69期。第68期と第71期は、最終局で自身が勝ち上位が崩れれば昇級の「キャンセル待ち」だったが、上位が勝ったため失敗)。

横山 そうなんですか。もうあんまり覚えていないんですよ。記憶に残っているのは、勝又さん(清和七段)に勝っての昇級です(第73期で2014年度)。このときから、勝つと上がれるという一番を迎えると前日に眠れなくなったんですよ。目をつぶるとうたた寝みたいな感じで、意識はだんだんトロッとしてきても、何か部分図みたいなものが浮かんで起きてしまう。それを一晩に20回、30回と繰り返すんです。「どうして眠れないんだろう。これじゃ勝てない」と思っても、眠れませんでした。

 人間の体って不思議です。その現象はC1からB2に上がる一番、B2からB1に上がるチャンスを迎えた一番、すべてで起きました。