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「勝てなかった時は選手たちがダグアウトで委縮していたんだと思う」野村克也監督時代の日本シリーズで生まれた“絶対大丈夫”の気持ち《高津臣吾監督インタビュー》

高津監督インタビュー #1

2022/01/01
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雰囲気づくりに欠かせないこと

 たしかに、今季のスワローズのダグアウトは賑やかだった。それは球場のダグアウトの上で観戦するとよく分かった。とにかく声が出るし、ヒットだけではなく、四球による出塁や、犠牲バントの成功にもダグアウトが盛り上がる。ちょっと大げさすぎるよ、とファンが思ってしまうほどに。

 この雰囲気づくりには、高津監督の野球に対する向き合い方がひと役買っているようだ。

©杉山拓也/文藝春秋

「根っこでは、野球を楽しみたいタイプなんです。僕が育ってきた時代というのは、上下関係も厳しいし、野球を楽しめるという雰囲気は薄かったわけです。でも、自分が監督になったら、まずは自分が楽しみたいと思ったし、選手にも野球を楽しんで欲しいと思った。だって、現場の責任者である監督がブスッとしていたら、選手たちは真剣勝負を楽しめないでしょう?

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 もちろん、僕だって試合中は文句も言います。でも、僕が楽しむ雰囲気を持っていなかったら、選手たちだって騒げない。野球を楽しむとは、単純に笑いながらプレーするという意味ではないですが、喜ぶ時は喜び、笑う時は笑い、怒る時は怒る。喜怒哀楽は素直に出そうと思ってます。

 日本シリーズのように、もちろん厳しい場面にも遭遇します。そういう時には、楽しむということさえ忘れそうになります。でも、この姿勢だけはどんな舞台であっても崩そうとは思いませんでした」

 高津監督の姿勢は、若手が感情を爆発するのを許容した。そして、ベテランの青木宣親、川端慎吾らも笑顔で若手の感情表現を受け止めていた。

「もともと、スワローズにはダグアウトで面白いことを言う遺伝子が、僕が現役時代からありました。今は、嶋基宏が結構面白いこと言うんですよ。ベテランがそういうムードを作ってくれるのは本当にありがたい。たぶん、勝てなかった時は選手たちがダグアウトで委縮していたんだと思います。そりゃ、負けが込んできたら、面白いことを言おうとする雰囲気もなくなってしまいますよね。

 でも、それがグラウンドで失敗するプレッシャーに変換されてしまうと、これは組織としてダメです。バッターが、もし、ここで打てなかったら……。ピッチャーが、もしも、ここで打たれたら……とか考えて委縮してしまったら、絶対に楽しくない。監督としては、そうした雰囲気にはならないよう、いつでも前向きになれるムード、言葉を探していましたね」

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