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「東京五輪のセレモニーをやるから2日間だけどいてくれ」路上生活で体験した“ホームレス排除”のリアル《行政からの無言の圧力も》

「東京五輪のセレモニーをやるから2日間だけどいてくれ」路上生活で体験した“ホームレス排除”のリアル《行政からの無言の圧力も》

『ルポ路上生活』より #1

2022/01/21
note

保険証なんて川に捨てた

 昨晩、豚しゃぶ弁当をダンボールハウスに投げ入れていたホームレスのことである。たしかに食べ物に困っていたら、あんな腹にはならないだろう。

「ホームレスのくせに太っているっておかしくないかと僕は思うけどね」

 ごもっともな指摘である。私は前科9犯の薬物依存症患者が寝ていた場所に拾った布団を敷くことにした。黒綿棒の布団と私の布団の距離は50センチほどしかない。

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筆者の寝床

 おとなりさんというよりこれではもはや同棲である。そして、黒綿棒はかなりおしゃべりな奴だった。

「見ての通りここはオフィス街だから土日は人がいないのだけど、平日の朝は得てして通勤ラッシュでサラリーマンが死ぬほど目の前を通る。気にしないのもひとつの手だけど、僕は大抵寝たふりをしているかその場から逃げる。トイレはオフィスビルのものを使う。ウォシュレットが付いていて手洗い場ではお湯も使える。0時以降はビルが閉まるので夜中は新宿中央公園に行くしかないのだけど、こっちはウォシュレットもお湯もない。あと、早朝に近くの駐車場で爆竹が鳴る。それで必ず目覚めるのだけど、さてそれはなぜでしょうか?」

 ここでクイズ形式と来たか。僕らホームレスに対する警告だろうか。

「違う。要は駐車場にネズミが棲みついているので、爆竹の音で撃退しているんだよね。そうそう、野宿者っていうのは得てして歯をダメにしてしまう傾向があるので、炊き出しでカンパンをもらっても氷砂糖は食べないほうがいい。僕もそれで歯をダメにしてしまったから」

 すでに奥歯は4本抜け落ちてしまったという。「保険証なんて川に捨ててやったさ」と言うように、当然、国民健康保険料など払っているわけがない。