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〈デビュー25周年〉「鈴さんの活躍を書いた時、吉永小百合さんを頭の片隅に置いていた」 吉田修一が『ミス・サンシャイン』で書いた“長崎の原爆”のこと

吉田修一さんインタビュー#1

2022/01/31

source : 別冊文藝春秋

genre : エンタメ, 読書, 映画, 歴史

note

――桃ちゃんとは、一心君が思いを寄せる女性ですよね。ちなみに一心君はどこかのほほんとしていて、そこはかとなく、吉田さんの青春小説『横道世之介(よこみちよのすけ)』の主人公・世之介っぽさがありますね。どちらも長崎出身ですし。

吉田 読者に読み進めてもらうためにも、語り口は明るくて軽やかなテイストのほうがよいだろうなと考えたんです。決して明るい一辺倒の話ではないからこそ、そうしようと。一心君については、最初はもっと世之介っぽかったんですけれど、途中で変えました。

 

作中作には、観てきた映画が詰まっている

――鈴さんは戦後の1949年にデビューし、ハリウッドでも評価された銀幕スター。ドラマや舞台でも長年にわたり第一線で活躍した、まさに酸いも甘いも嚙み分けている女優です。

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吉田 鈴さんは女優一本で生きる人というイメージでした。京(きょう)マチ子こさんとか、その時代時代で輝いていたスターをイメージしながら、女優像を作り上げていきました。

――鈴さん=和楽京子の女優史のパートでは、実在する俳優たちに交じって、架空の監督や作品もたくさん出てきます。それがどれもいかにも本当にありそうなのが可笑(おか)しくて。作品の内容や周囲の評価なども詳細に設定されていますよね。

吉田 彼女の出演作を考えていくのは本当に楽しかったです。

――和楽京子は1949年、成田(なりた)三善(さんぜん)監督の『梅とおんな』で、主人公である僧侶の妹という脇役でデビューする。その後、文豪・谷本(たにもと)荒次郎(あらじろう)の小説が原作の『洲崎(すさき)の闘牛』という、赤線地帯に生きる女をたくましく演じて話題となって……。

 

吉田 それぞれの作品に直接のモデルがあるわけではないのですが、僕が今まで観てきた映画のエッセンスを詰め込みました。書いているうちに、あまりにそれらの映画が現実のもののように思えてきて、すごく馬鹿な話なんですけれど、連載中に『洲崎の闘牛』のラストの台詞を確認しようとして、無意識のうちにNetflixで検索していたんです(笑)。タイトルを入力しながら「あ、僕が作った映画だった」と気づいて。それくらい、本作で描いた世界は、僕にとってリアリティのあるものだったんです。

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