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「私をお嫁さんにと思ってたのは本当なんですよ」漫画家・水野英子が語る、赤塚不二夫や石森章太郎と過ごしたトキワ荘での7ヶ月

『少女漫画家「家」の履歴書』より#2

source : 文春新書

genre : エンタメ, ライフスタイル, 読書, 歴史

note

 その頃ね、私が里中満智子さんや竹宮惠子さんを誘い、漫画に対する著作権の勉強会をやったので睨まれたの。当時はアニメ化の原作料など非常に安いものでした。私の家の居間にぎっしり、同じ意識の業界関係者が30人以上は集まりまして。こういう私の生意気さが打ち切りに結びついちゃったんでしょう(笑)。

 現在も『ファイヤー!』をソウルコミックと呼んでくれる読者が多い。やっぱり魂を描いたつもりですから嬉しいですね。

連載終了後シングルマザーに…子育てに忙しく短編ばかり描いていた

 連載終了時、水野さんのシングルマザー生活が始まった。

 次回作に生命の始まりと終わりをテーマにしたものを構想していたところに、子供を授かったのは本当に嬉しかったです。それまで仕事仕事で、初めて自分に人間らしい出来事が訪れた。父親は関係なく、産んで育てたかった。

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水野英子さん ©️文藝春秋

 母親になる前に3つの誓いを立てました。子に嘘はつかない、約束は破らない、守れない時は理由を伝える。20歳になるまで必ず一緒にいてやろう。そうして産まれたのは男の子でした。

 それからはひたすら子育ての日々です。一度ね、家事も仕事も終わってお風呂に入れて、もう寝るだけの時、息子が体温計を口に入れて噛んじゃって口中ガラスだらけ。泣くどころかニコニコ顔なの(笑)。乳幼児は何やるかわかんないから、描きながら片目は子供の様子を窺う作業をやってね。そうなると短編しか描けません。収入は4分の1まで落ちて蓄えはなし。短編ばかりで単行本を出す機会もない。けれど私にしか描けない仕事もあるんだと励ましてやってきました。

 2010年、全作品に対して日本漫画家協会賞文部科学大臣賞を受賞。現在は漫画史を伝えるため旺盛な活動を続けている。