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《「医師」の肩書を信じないで》悪徳医師が生まれる“哀れなメカニズム”と末期がん患者が「命を落とした時の言い訳」とは

2022/02/17
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最大のターゲットは“終末期のがん患者”

 そのうえで上松医師が付け加える。

「もし本当に効果の期待できる薬やサプリを開発したとしたら、開発者(製薬企業)はその薬やサプリをたくさん使ってもらうために保険収載(保険診療での使用が認められること)を目指すはずで、そのためには治験が不可欠。治験は患者に経済的負担のかからない仕組みで行われるので、保険診療よりも安い出費で済みます。

 つまり、現状の日本の医療制度で、効果の期待できる医療に、保険診療とは桁違いの高額な医療費が発生することはあり得ないと考えたほうがいいでしょう。例外的に先進医療という保険外で提供される医療がありますが、これは保険診療になるためのデータが今ひとつ足りない段階のもので、期待はあるものの効果が認められて保険承認されるのは6%程度です」

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 本当に「効果のある薬(サプリメント)」と謳いながら、自由診療でしか使われないのは、健康保険制度の整備された日本において「理屈が通らない話」というわけだ。

写真はイメージです ©iStock.com

 そして、悪徳医師の多くがターゲットにするのが慢性疾患やがんで、中でも“がんの終末期”の患者が狙われやすいという。

「卑劣な理由ですが、終末期の患者やその家族の藁にも縋る思いを利用して、大金を引き出せるからです。なかにはその患者が命を落とせば訴えられることなく逃げ切れると思っている悪徳医師もいるでしょう。医師として、本当に許しがたい行為です」

必ず標準医療を行う主治医に相談を

 どんなに大金を使おうと、それがインチキである以上、効果はない。しかし詐欺医療の側には、患者が命を落としたときの言い訳も用意されている。

「『抗がん剤や放射線の影響で助からなかった。もっと早くウチに来ていれば……』が常套句。反対に、もし症状に少しでも改善がみられたら、広告塔として利用されます。それで症状が改善した人は詐欺医療で改善したのではなく、標準治療による副作用がなくなって一時的に体が楽になっただけで、実際は病状が進行していることが多いのですが……。がん患者への詐欺医療は、病状が悪化しても近くの救急病院に行け、と言うだけなので、悪徳医師の側に損はない仕組みなんです」

 ところで、詐欺医療に運悪く取り込まれてしまった患者は、それまでの主治医(正当な医療の医師)にはどう説明しているのだろう。一説によると、3~4割が主治医には内緒にしているという。しかしこれは非常に危険だ。

上松医師の「YouTubeクリニック」より 

「詐欺医療で出す“わけの分からないサプリメント”が、正当な標準治療で処方される薬と干渉して効果を下げたり、悪化させたりする危険性があります。どうしても標準治療以外の“治療”に興味があるなら、まずは正直に主治医に相談してほしい」

 おそらく主治医は反対するだろう。しかし、そこできちんと議論することが、命とお金を守ることにつながるのだ。

 最後に上松医師は、こうつぶやいた。

「“医師”という肩書を信用しないでください……」

 同業者と闘わなければならない上松医師の無念さが伝わってきた。

《「医師」の肩書を信じないで》悪徳医師が生まれる“哀れなメカニズム”と末期がん患者が「命を落とした時の言い訳」とは

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