日本・デンマーク外交関係樹立150周年となる今年秋、デンマークのフレデリック皇太子夫妻が来日した。ホテル雅叙園東京で開かれた祝賀晩餐会には皇太子さまとともに雅子さまも山吹色のドレスで出席され、女性週刊誌がその華やかな内幕を報じている。

 デンマークといえばアンデルセン。三角屋根のパステルカラーの家が立ち並ぶ北欧のおとぎの国から皇太子に随行してやってきたのは、外務大臣、保健大臣、文化大臣、環境食料大臣。トランプ大統領に限らず、貿易で儲けたいのはどこの国とて同じで、彼らも滞在中は自国の観光、産業のPRに努め、晩餐会ではデンマーク名産の豚肉料理がふるまわれた。

晩餐会に臨席されたデンマークのフレデリック皇太子とメアリー皇太子妃、皇太子さまと雅子さま ©Scanpix Denmark/時事通信フォト

 そんな中、ある世界的企業のトップもフレデリック皇太子に随行して来日していたことはまったく報じられなかった──。その人こそ、クリオス・インターナショナル(以下クリオス)のオーレ・ショウ代表だ。

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 ご存じだろうか、クリオスとは世界最大の精子バンクである。なんと、おとぎの国“イチ推し”の企業として精子バンクがやってきたのだ。

世界100カ国以上に精子を輸出中

 ショウ氏は1953年生まれ。以前からショウ氏と交流があり、『生殖医療の衝撃』などの著書がある日本生殖医学会理事の石原理・埼玉医科大学教授によれば、彼はビジネススクールの学生時代に、たくさんの「凍った精子」が海を泳いでいる夢を見て精子バンクの設立を思いついたのだそうだ。

「彼のオフィスを訪ねると、ロビーにその夢をリアルに描いた巨大な絵画が掲げられていました。自らの精子を用いて凍結実験をしていたとも伝え聞いていたので、本当にそんなことをしていたのか本人に聞いてみたところ、事実とのことでした。アパートの冷凍庫で凍結して保存していたので、訪ねてきた友人はみな驚いたそうです」(石原教授)

 多くのドナーから精子を買い集め、凍結保存して医療機関や個人に販売する──青年ショウが30年前に立ち上げたこのビジネスは大繁盛した。2015年からはデンマークとアメリカの二本社制を敷き、いまや世界100ヵ国以上に精子を販売している。

ネット通販で凍結精子が宅配され、自宅で解凍

 クリオスの商法は、いわば“産直”。購入希望者がクリオスのサイトの電子カタログを見て、気に入った精子ドナーのボタンをポチッとして注文すると、マイナス196度の液体窒素タンクで凍結した精子が宅配されるというシステムだ。購入者が海外の場合でも、航空便でほとんど4日以内に届けられているという。

 ちなみに、クリオスでは凍結した精子の入ったストローをドライシッパーという凍結試料搬送容器に入れ、ていねいに梱包して段ボール箱で配送するが、コペンハーゲン市内にある同業他社のノルディスク・クライオバンクではクリニックへの配達用に「精子自転車」を登場させた。精子を模った冷凍庫を搭載した改造自転車だ。かくして、おとぎの国では巨大な精子が街を泳ぐように疾走している。

コペンハーゲン市内を走る「精子自転車」 (THE BLOG by Copenhagenize Design Co.より)

 こうして届いた凍結精子を解凍して人工授精、もしくは体外受精(*註)するわけだが、多くの場合は購入者自身による人工授精(Self-insemination)、つまり自分で解凍し、自分で膣に注入する。そのため、付属の人工授精キットも用意されている。

 クリオスの電子カタログを開いてみると、これが時を忘れて見入ってしまうほど興味深い。現在、カタログに掲載されているドナーは931人(2017年12月21日現在)。まず、匿名のドナーがいいか、実名が開示されるドナーがいいかを選び、さらに希望するドナーの国籍、人種、身長、体重、血液型、目の色、髪の色、精子の運動率にチェックを入れて検索ボタンをクリックすると、たちまち希望にマッチするドナーが何人いるかが表示される。

ドナーのプロフィール、目の色、体重、人種など希望するものをクリックする(クリオスのホームページより)