精子を渇望しているのは、大手通信会社に勤めるリケジョの総合職A子さん(40)だ。中高一貫の名門校、難関国立大学とも受験では常に勝ち組。採用の内定も獲りまくって第一志望に就職した。配属も花形の部署だし、30歳で年収1000万を超えたし、ベイエリアのタワーマンションも購入したし、絵に描いたようなキャリアウーマンライフを謳歌しているように見えるが──。(#1「精子もネット通販で! 値段は学歴でもイケメン度でもなく〇〇で決まる」より続く)
欲しいものはなんでも努力して手に入れてきたのに、精子だけが手に入らない
「欲しいものはなんでも努力して手に入れてきたのに、精子だけが手に入らないんですよ」
ため息交じりに話すA子さんは、なにも最初から精子が欲しかったわけではない。学生時代のカレとフツーに結婚するつもりだったが、社会人になって4年目に母が難病に倒れ、仕事と看病に追われている間にカレは別の女性と結婚してしまった。
母は10年に及ぶ闘病の末に亡くなり、その翌年、まるで後を追うように父が急逝した。
「2年続けて年賀欠礼のハガキを書きながら、ふと、私には看取ってくれる人がいないことに気づき、このまま独りでいることが怖くなりました。そうだ、子どもを産もう。そのためにはまず、結婚しよう。そう思って婚活にも努力したのに、いい人がぜんぜん見つからない。それならもう結婚はしなくていいけど、子どもだけは一刻も早く産みたいんです」
5年前に「卵子は老化する」と知って、すぐに自らの卵子を凍結保存した。だからあとは、体外受精に用いる精子が欲しいのだ。
「もう40代に突入しましたから、ギリ、産めるうちに早く精子を見つけなければ!」
A子さんはかなり焦っている。
都会のキャリアウーマンだけでなく、地方の跡取り娘も……
シングルマザーになろうと考えているのは、都会のキャリアウーマンばかりではない。B子さん(38)は、関西の小さな町で伝統工芸品の工場を営んでいる。何不自由なく育ったが、短大を卒業する年に経営者の父が亡くなり、一人っ子のB子さんが19歳で跡を継いだ。
以後、足許を見るかのような取引先からの注文のキャンセル、金融機関からの貸し剥がしなど、幾多の危機をベテランの従業員に助けられながら必死に切り抜けてきたのであった──。こちらはなんだかWOWOWのドラマになりそうな女の半生だ。
「縁談も降るようにあったけれど、それどころではありませんでした。そしてようやく仕事を覚えた頃にはアラフォーになっていた。古い町ではもう出会いも縁談もありません。でも、代々続けてきた家業を私の代で断つわけにいかないんです」
跡継ぎを産まなくてはならない。だから、本気で体外受精を考えているのだという。
「私の年齢を考えたら急がなくては。精子はどうしたら手に入るんでしょう」
ゲイのカップルから精子提供してもらうレズビアンカップル
C子さん(35)もまた、精子を探している。日本でも徐々にLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの人々の総称)という言葉、概念が浸透しつつあるが、C子さんはレズビアンであり、特にそれを隠そうとはしていない。
パートナーの女性とは交際3年目。そろそろ2人でLGBT条例(男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例)が施行されている東京・渋谷区に転居し、家庭を築いて子どもを産んで育てたいと考えている。
「レズビアンで事実婚状態のカップルのなかには、ゲイのカップルから精子の提供を受けてセルフ人工授精で子どもを授かった人もいます。私たちも精子を提供してくれる人を探しているのですが、安心な精子バンクがあるなら、すぐにでも利用したいです」