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野放しの日本の自称「精子バンク」はセックスも提供する

 日本にも自称「精子バンク」は存在し、検索すればその類の団体や個人がズラズラ出てくる。その多くが、ドナーから採取したての精液を受け取り、これを新鮮なうちに自分で膣内に注入するという方法を勧めている。素人がカテーテルのついた注射器を使って自分で体内に精液を入れるのだ。

 なにより、提供される精子自体の安全性に疑問符がつく。感染症の検査結果を公開しているケースもあるが、精子提供者が匿名である以上、その検査結果が本人のものであるという保証はない。たとえ本人の精液を検査し陰性の判定であったとしても、エイズなどは感染しても陽性にならない潜伏期間があるから当てにはできない。

 さらに、自称「精子バンク」では“タイミング法”による精子の提供も案内している。産婦人科での正規の不妊治療であるタイミング法とは、医師が経腟エコー検査で排卵のタイミングを正確に割り出し、夫婦に性交の時期を指示することを意味する。では、自称「精子バンク」のタイミング法とはいったい何だろうか?

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 それは女性が妊娠しやすい時期に“実際にドナーとセックスする”ということにほかならない。日本では第三者からの精子提供に関する法律が整備されていないため、このような自称「精子バンク」が野放しになっているのだ。

 ネット通販の感覚で精子を購入できるデンマークの世界最大の精子バンク「クリオス」は、前述のとおり精子ドナーは感染症の検査、染色体検査、遺伝子検査をクリアした人に限っているため、応募者のうち実際にドナーになれるのはたった8%と狭き門である。さらに精子自体も“運動性”、すなわち妊娠成功の可能性の高さで選別している。

 では、このように由緒正しい精子を扱う正統派「精子バンク」の顧客とは、いったいどのような女性たちなのだろうか。

精子を購入する女性の多くが高学歴・高収入

 選択的シングルマザーという生き方がある。離婚や夫との死別によってシングルマザーになったのではなく、最初から子どもを独りで産んで独りで育てるという生き方だ。A子さんやB子さんが目指しているのがまさにこれだ。

『生殖医療の衝撃』などの著書がある日本生殖医学会常任理事の石原理・埼玉医科大学教授によれば、クリオスの顧客のほとんどが選択的シングルマザーを希望する女性で、次に多いのがレズビアンカップルの女性ということだ。

「クリオスに限らず、欧米の精子バンクから精子を購入する女性の多くは、現在独身である女性やレズビアンの女性です。また、そのほとんどが高学歴、高収入であるという特徴があります」(石原教授)

欧米の精子バンクの利用者は高学歴・高収入のレズビアンカップルやシングルの女性だ ©iStock.com