被害者数17名、生き残った人間はPTSDを抱え、模倣犯が出現したことも…。2018年、アメリカを震撼させたフロリダ州パークランドで起きた銃乱射事件。当時17歳の犯人はどんな人物だったのか? なぜこの大量虐殺を誰も止められなかったのか?
事件の詳細を、実際に起きた事件や事故などを題材とした映画の元ネタを解説する新刊『映画になった恐怖の実話Ⅳ』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/最初から読む)
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17人が死亡…「史上最悪の銃乱射事件」はなぜ起きた?
2018年、米フロリダ州パークランドにあるマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校(以下M・S・ダグラス高校)で元生徒の19歳男性が銃を乱射、生徒や学校職員17人が死亡する大惨事が起きた。このニュースを当時TVドラマや映画の俳優として活躍していたフラン・クランツ(1981年生)は大きな衝撃を持って聞く。
父親になったばかりだったことに加え、ドナルド・トランプが大統領に選ばれたことでアメリカはかつてないほど国が分断され、人々の間に憎悪が渦巻いていることに激しい不安を覚えたからだ。なぜ、犯人は無差別な大量殺人を犯したのか。犯人を育てた親、被害者の遺族は何を思うのか。こうした疑問をドラマ化すべく、クランツは1999年のコロンバイン高校銃乱射事件以降アメリカで起きた多くの銃乱射事件を取材、被害者遺族にも徹底的に取材し、映画「対峙」(2021年公開)を作り上げる。
映画は自分の通う高校で銃と爆弾を用いて10人を殺害し自殺した男子生徒の両親と、16歳の息子を失った両親の4人が事件から6年後、教会の一室で思いを語り合う人間ドラマだ。劇中に犯人、犠牲者は出て来ず、殺戮シーンも一切ない。描かれるのは両者の絶望と赦し。極めて冷静なタッチで彼らが抱える深い喪失が映し出される。
本稿では、クランツ監督が映画制作の起点としたM・S・ダグラス高校銃乱射事件の顛末を追う。後に事件を起こすニコラス・クルーズは1998年、フロリダ州マーゲートで私生児として生まれた。実母は育児を放棄し、出生後孤児院へ。ほどなくロジャーとリンダのクルーズ夫妻の養子として引き取られる(劇中の犯人の母親の名前もリンダ)。
劇中で語られる犯人が高校時代にパイプ爆弾を作り逮捕されるなど問題行動があったように、クルーズも幼稚園のころから2歳下の異母兄弟ザカリーと殴り合いの喧嘩をし、テレビや室内の壁を壊すなど問題行動の多い少年だった。
10代半ばから家庭内暴力は激しさを増し、2012年からの5年間で養母リンダが通報し警察が家に来ること実に24回。銃乱射事件へ大きな関心を抱く傍ら、SNSで人種差別、反ユダヤ主義、同性愛者や外国人嫌悪の見解を発信していた。また、医師から注意欠陥多動性障害(ADHD)と反抗挑戦性障害(ODD)の診断を下され、3年間で学校(M・S・ダグラス高校を含む)を6回も転校。

