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2017 国内海外 推理小説十傑――ミステリーベスト10 国内編

2017 国内海外 推理小説十傑――ミステリーベスト10 国内編

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6.『教場0 刑事指導官・風間公親』

『教場0 刑事指導官・風間公親』(長岡弘樹 著)

 日中弓(ひなかゆみ)は交際相手の芦沢健太郎を、タクシーの中で刺殺してしまう。芦沢との関係は誰にも知られていないから大丈夫だと、彼女は自分に言い聞かせるが……(「仮面の軌跡」)。画家の向坂善紀は、過失で死なせてしまった歯科医の苅部達郎の頭部と両手首を切断し、山に埋めた。しかし、土砂崩れで遺体が発見される(「三枚の画廊の絵」)。佐柄美幸は息子の担任の諸田伸枝を殺害し、遺体を移動させて偽装工作を行う(「ブロンズの墓穴」)。仁谷継秀は介護疲れから、認知症を患った妻・清香を死に至らしめた。清香が失くした結婚指輪が招いた皮肉な結末とは(「指輪のレクイエム」)。

 T県警では、各署にいる経験3ヶ月の刑事が1名、定期的に本部へ派遣され、指導官の風間公親の下でみっちりと教えを受ける。これを風間道場という。――トリックを弄して完全犯罪の成立を図る殺人者たちと、風間の下で捜査のイロハを叩き込まれながら事件と向かい合う刑事たちの勝負を、『刑事コロンボ』風の倒叙ミステリー形式で描いた、全6篇の連作警察小説。

▼ここが魅力!

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小椰治宣「六つの短編のタイトルが、あの『刑事コロンボ』のあれだと気付いたとき、作者のニンマリした顔が見えた気がした。トリックメーカーぶりは尋常ではない。これだけの倒叙ミステリーを六つも読めるなんて!」

早見俊「警察学校の教官・風間の刑事時代を描いたゆえ0という題名。倒叙ミステリーという形式が風間らしさを際立たせている」

福本直美「これまでは人物の個性が強烈で事件の印象が薄いように感じていたが、今作は人も事件も存在感がある」

7.『AX アックス』

『AX アックス』(伊坂幸太郎 著)

 文房具メーカー勤務、40代半ばのサラリーマン三宅には裏の顔があった。通称「兜」として知られる超一流の殺し屋だったのだ。彼はこの商売には珍しい妻子持ちで、しかも1人息子の克巳もあきれるほどの恐妻家であった!

 深夜帰宅してカップラーメンを食べようにも、その音で寝ている妻を起こすわけにはいかない。何を食べたらいいのか、あれこれ検討して最終的に行き着いたのは魚肉ソーセージ。彼は克巳に「蟷螂(とうろう)の斧」という言葉の意味を問う。弱いにもかかわらず、必死に立ち向かう姿。それはまさに兜の日常そのものだった。

 兜に裏の仕事を仲介するのは都内のオフィス街にある診療所の医師。兜は克巳が生まれた頃から引退を意識し始め、それを医師にも伝えてきたのだが、なかなか認めて貰えない。彼は今回も、爆破事件を計画している奴らを始末する緊急事案を受けることになるが……(「AX」)。

 家族愛に目覚めた殺し屋の苦悩と葛藤。ユーモアにペーソスを交えた独自の語りで読ませる殺し屋シリーズ第3弾。全5篇収録の連作集だ。

▼ここが魅力!

高木久直(戸田書店掛川西郷店)「温もりを感じるミステリーってこういう作品のことを言うのではないだろうか。間違いなく本年を代表する傑作。家族愛のつまった一冊」

温水ゆかり「『世代臭』と書くと臭いもののようだが、伊坂作品には、ある世代感覚があった。ミステリー好きでも、肌に合わないと言う人もいた。しかしそれが取れた。ユーモアと切なさの混合で、世代を超えた大人の作になった」