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春なのに荻野貴司はいない…からこそ、オープン戦首位打者・髙部瑛斗“覚醒”の予感

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/04/02
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「もしや」と期待させてくれるロマンが詰まっている髙部の姿勢

 とはいえ、マリーンズの戦いはまだまだこれから。荻野の不在を嘆くぼく自身、ちょっと負けが続いたくらいで悲観する必要はいっさいない、とも思っている。

 そもそも、主力がひとり欠けたぐらいでガタが来ているようでは、とてもじゃないが、長丁場のペナントレースは戦えない。限られた席が空くのを、いまや遅しと若手が狙う。それこそが、健全なプロの世界。荻野貴司がどんなに欠かせない選手であっても、彼が戻ってきたときに「席、温めときましたんで」と若手が易々とその席を譲ってしまうチームに、明るい未来は来ないのだ。

 その点、今年はちょっと違う。なぜかって、そりゃもう、髙部瑛斗がいるからだ。

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 仙台での開幕戦では、四球の平沢大河を一塁に置いて、自分も生きるセーフティバントでチャンスを広げ、先制点をお膳立て。7回2死まで相手先発・石川柊太に“ノー・ノー”を許したホーム開幕戦でも、8回に(あの!)モイネロから値千金の同点打を放って、すんなり勝たせはしなかった。

髙部瑛斗

 今年プロ3年目。目下売り出し中だが、イースタンではルーキーイヤーから2年続けて3割を打ち、去年は28盗塁でダントツの盗塁王。数少ない1軍での出番となった去年4月24日には、一昨年のプロ初ヒットの相手でもあった高橋礼から、これまたプロ初となる逆転2ランを放って、“開幕5連敗”の悪夢も醒めやらぬ対ホークス戦でのシーズン初勝利も呼び込んだ。

 そんな彼が、今シーズンはキャンプから目の色を変えて、オープン戦首位打者&トップタイの5盗塁をマーク。荻野がいないマリーンズ打線のリードオフマンとして、遮二無二バットを振っている。むろん、まだまだヒットは少ないし、ここぞの場面では三振も多い。それでも――。その積極果敢な姿勢には「もしや」と期待させてくれるロマンが詰まっている。

 31日のホークス戦でプロ初出場を果たした、史上初のマリーンズジュニア出身ドラ2ルーキー・池田来翔は、同じ国士舘大の2学年後輩。図らずもコロナ禍で早まった同時スタメンの機会は、きっと先輩・髙部の刺激にもなっている。イースタンではすでに格の違いを見せつけているだけに、ある程度、打席数をこなせば、早晩アジャストもしてくるだろう。

 個人的な思い入れの強さでは、これからも推しは荻野貴司一択だ。ただそれでも、現時点で先陣を切った髙部が、あとに続く藤原恭大、和田康士朗あたりが、外野で競争を繰り広げて、遠からず戻ってくる彼を安住させないことが、チームとしては理想形。

 深淵かつ広大なネットの海に“荻野愛”を恥ずかしげもなく書き殴っているこのぼくが、その世代交代に直面してうっかり気落ちするくらいが、正しい姿だという自覚もある。

 先にも触れた西武・若林は、髙部とは1学年違いのほぼ同年代。奇しくも兄ちゃんはともに美容師だし、出身の国士舘と駒大は、時期的に東都の二部で被ってもいる。右・左の違いはあっても、同じ俊足巧打の外野手として、よきライバルになりうる次代のスターだ。

 いまや“黒歴史”のひとつともなっている小坂誠vs松井稼頭央の盗塁王争いがあったのは、彼らがまだ赤ん坊だった98年。醜い泥仕合はもう勘弁だが、あの頃を知らない両軍の新世代が、いまふたたびのハイレベルな争いを繰り広げてくれたら、ファンとしてもこれ以上ない喜びだ。

 事実、髙部を筆頭とする期待の若手の名前が、谷保さんにコールされたときのワクワク感は、おととしより去年、去年より今年のほうが、ぼくのなかではずっと高い。なにしろ、髙部だって、藤原や和田だって、伸び代は無限大。まだまだ「こんなもんじゃない」のだから。

 折りしも昨夜はそんな髙部のヒットからチャンスを作り、最後は彼がサヨナラヘッスラ。結果的には源田壮亮の“らしからぬ”エラーにも助けられたが、とにもかくにもホーム初勝利を手中にした。

 春は、新たな才能が芽吹く季節。春なのに、荻野貴司はいないけど、まだ春だから、ぼくは目先の結果に一喜一憂ばかりせず、若手たちの奮闘にも心躍らせて、前を向く――。

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