文春オンライン

20人死んだ鉱山事故でも「死者2人」と発表…日本に逃げ込んだ中国“超大物ジャーナリスト”が暴いた闇

2022/09/10

genre : エンタメ, 国際

note

 かつて中国の国営放送CCTV(中国中央電視台)の人気報道ドキュメンタリー番組の解説員(編集委員)として中国全土で広く名が知られた、中国の改革派の大物ジャーナリストである王志安。彼は中国国内での活動が困難になった2019年末から日本に拠点を移している。

 前編の記事に引き続き、中国メディアの裏事情と、今年秋の党大会で異例の3期目に突入することが有力視されている習近平政権と中国の未来について語ってもらった(全2回の2回目/記事前編や王志安の略歴についてはこちらから)。

インタビュー中の王志安(左奥)と筆者。2022年6月7日。

◆ ◆ ◆

ADVERTISEMENT

中国メディアが輝いていた時代

──習近平政権の成立から約10年が経ち、中国では現在の言論状況が自明の前提のようになっています。ただ、実はそれ以前は中国にもそれなりに言論の自由があり、改革開放政策のもとで時事評論や調査報道の文化も花開いていました。

:江沢民の時代(1990年代なかば~2002年)が黄金時代です。まず紙媒体の世界では雑誌『南方週末』『南方都市報』などからなる南方報業グループが有力で、ここはその後の中国のメディア業界を担う人材のブートキャンプ(注.原文は「黄埔軍校」)でもあった。北京の『新京報』や上海の『澎湃新聞』などの編集者や記者などの人材は、いずれもここから出たんです。

──習近平政権の成立前は、日本の報道でも名前を聞いたような自由派の中国メディアばかりですね。もっとも、体制と近い『澎湃新聞』以外は、最近は元気がない印象ですが……。

2014年1月25日の『新京報』紙面。習近平の中央国家安全委員会主席就任を報じる見出しの下に、時代劇の皇帝の写真を載せた嫌がらせ。気骨のある時代の中国メディアはしばしばこうしたことをおこなっていた。

:もうひとつの人材のブートキャンプが、雑誌『財経』です。こちらは創業者の胡舒立が過去にニューヨーク・タイムズで働いていた経験もあって、実は前出の南方系メディアよりレベルが高かったのですが、記者の給料が安かった。なので商業的には後塵を拝しました。

──やがて胡舒立が創刊した『財新』は、2020年冬の新型コロナのパンデミック初期にもいい報道を連発しています。習近平体制下ではめずらしい動きです。

:現在、まだ調査報道がやれる中国国内のメディアは『財新』くらいですよ。さておき、南方系メディアも『財新』も、江沢民時代に生まれたものでした。いっぽう、テレビの分野で調査報道で活躍したのが、私も所属したCCTV新聞評論部(ニュース評論部)なのです。

天安門の生き残りが社会の中枢に食い込む

──CCTVは中国の国営放送です。体制側メディアの筆頭ではありませんか?

:その通り。CCTVは巨大な官僚機構にして「党の喉と舌」(プロパガンダ機関)です。ただ、1990年代には改革の気風の影響が強く、「観察と思考」「焦点訪談」「東方時空」など優れた報道番組を作っていたのです。

 特に「焦点訪談」や「東方時空」は、CCTVの他の部門から独立していて、社内の審査基準が適用されていませんでした。人事採用も独自のものがあり、戸籍や档案(注.中国政府が記録している個人の経歴や思想を記した秘密データ)を参照せずに人を採っていました。