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「普通なんですが…」ネットを騒がせる“眼科の愛新覚羅先生”が明かす、やっぱり凄い“わが半生”

2021/08/23

 愛新覚羅氏をご存知だろうか? かつて中国大陸を支配していた「清」という王朝の皇帝の一族である。

 もともと、現在の北朝鮮の国境とほど近い地域(現在の撫順市と通化市の間あたり)を拠点とした満洲族(女真族)の首長・ヌルハチがご先祖だ。ヌルハチは1616年に即位し、次代のホンタイジが国号を「大清」に改め、3代目の順治帝の時代に中国本土に進出。やがて康煕帝・雍正帝・乾隆帝の3賢帝の時代に極盛期を迎えた。現在の中華人民共和国の領域も、外モンゴルと台湾を除けばほぼ清朝の範囲を継承している。

 清朝は1840年のアヘン戦争を境に衰退し、1911年の辛亥革命で滅びた。ただ、最後の皇帝・溥儀はやがて日本の関東軍に利用されて傀儡国家の満洲国の皇帝として即位、戦後は収容所を経て、最後は一般市民として北京市内で没する。このあたりの話は、映画『ラストエンペラー』や、溥儀の弟の溥傑に嫁いだ日本人・浩の自伝『流転の王妃』などを通じて知る人も多いだろう。なお2003年に後者がドラマ化された際は、溥傑を竹野内豊、浩を常盤貴子が演じた。

──そして、時は流れて令和の現代である。

 JR東日本大井町駅の京浜東北線のホームに、ネット上でちょっと話題になっている看板がある。それはこちらだ。

大井町駅のホームにて。アトレ休館日のほかは年中無休。(著者撮影)

 清の国姓・愛新覚羅。笑みを浮かべる中華風の髪型の女性医師。そして半端なくすごい経歴……。どう見てもただ者ではない。

 クリニックのホームページなどの情報によると、この「愛新覚羅 維」(あいしんかくら・い)先生は名古屋大学医学部を卒業後、複数の病院勤務を経て、2017年に東大で医学博士号を取得。翌年にアイクリニック大井町の院長に就任したらしい。既婚で3児の母。国内外での医学論文の執筆や学会発表も活発な眼科専門医だ。

アトレ大井町5階の紫禁城

 そこで思い切って取材を申し込んでみたところ、「姓が変わっているだけで私は普通なんですが……」と、やや戸惑う様子ながらもインタビューを快諾する返事が来た。その後、メッセージをやりとりしてみると、返信のレスポンスも速くけっこう気さくな方である。

 そして8月18日午後1時、彼女が院長を務めるクリニックに向かった。現代の愛新覚羅氏が統べる地は、JR大井町駅に隣接するアトレの5階。書店の有隣堂とカメラのキタムラが入居するフロアの片隅にあった。受付のナースに用向きを伝えると、他の患者さんに混じって待合室で座っているよう指示される。しばらく待っていると名前を呼ばれた。

アイクリニック大井町。患者さんは多く、繁盛しているようだった。(著者撮影)

 さて、ダイチン・グルンの亜麻色の帷幕──。もとい、診察室のベージュ色の医療用カーテンを開けた先には、大きな目をした細身の女性医師が座っていた。白衣の胸元には「W.Aixinjueluo」と筆記体の刺繍。まぎれもなく愛新覚羅先生だ。以下、会話については対談形式でお送りする。