文春オンライン
文春野球コラム

ヤクルト前三塁コーチャー・福地寿樹が明かす「日本シリーズで先取点をもぎ取るため」に考えていたこと

文春野球コラム クライマックスシリーズ2022

2022/10/17
note

21年のスワローズ日本一の立役者登場

 文春野球読者のみなさんはじめまして、そして東京ヤクルトスワローズファンの皆さんお久しぶりです、福地寿樹です。

 まず、簡単に自己紹介させていただきますと、1993年のドラフトで、広島東洋カープに入団、主に外野手、二塁手としてプレーし、2006年に西武ライオンズに移籍。そして2008年に石井一久さんのFAの人的補償で、東京ヤクルトスワローズに移籍、2012年に現役引退したあとは、13年~21年まで9年間、外野守備走塁コーチとしてお世話になりました。

 昨年限りでスワローズを退団し、今は東京から離れて、すこしのんびりした生活を送っています。野球選手って夏休みがないから、今年の夏には本当に久しぶりの休みに嬉しくなって、海に行ってガンガン泳いでしまいました。そしてたまにメディアに出させていただいて、野球関係のお仕事も続けさせていただいています。

ADVERTISEMENT

筆者の福地コーチ

足のスペシャリスト

 改めて、ヤクルトスワローズファンのみなさん、リーグ2連覇、そして日本シリーズ進出おめでとうございます。テレビに映る見知った顔の笑顔笑顔笑顔。いちファンとして応援させていただいていました。もちろん優勝決定ゲームも、村上宗隆の56号の試合も見ましたよ。

 テレビを食い入るように見ていたら、ひとつ気になることがありました。胴上げの輪のなか、もっともいいところにカメラを持ったスーツ姿の男がやたらと映ることが。思わずその男にLINEをしました。

「マーシー、映りすぎ!!」

 そう、スーツの主は、この文春野球コラムでも大活躍しているマーシーこと、三輪正義広報です。彼とは現役時代もコーチと選手の間柄になってからも、僕が退団してからも親しい仲。とくに僕が一・二軍の外野守備走塁コーチを務めていたころは同じ「足のスペシャリスト」として、技術論、精神論を戦わせたことが昨日のことのように思い出されます。

「本当に困ったときの三輪」。首脳陣からも信頼が厚かったマーシー、メンタルが図太いのか、なんにも感じてないのかよくわからないけど、とにかく仕事だけはきっちりとこなす男。そんな男からの「文春野球」“代走”のオファー。ちょっと緊張しますが、喜んで筆を執らせていただきます。

去年の日本シリーズ、三塁ベースコーチャーズボックスで考えたこと、実践したこと

 去年の日本一は、私の野球生活のなかでもっとも嬉しかったことの一つです。11月27日、ほっともっとフィールド神戸。2-1で勝利した日本シリーズ第6戦。私は三塁ベースコーチャーとして、2本のタイムリーで走者をホームに還し、勝利に貢献したことを誇りに思っています。

「先取点」。昨年、髙津臣吾監督が掲げていたもっとも大きなテーマでした。レギュラーシーズンも当然ですが、日本シリーズの短期決戦になるとより重要度が増してくる「先取点」。6試合中5試合が1点差、残る1試合も2点差という近年稀にみる接戦続きとなった、去年の日本シリーズ。三塁ベースコーチャーにかかる重圧も相当なものでした。

「ヒット1本で1点を取る」にはどうするか

 そのなかで私がシーズン始まる前からずっと考えていたのは「ヒット1本で1点を取る走塁」。選手みんなが急に足が速くなるわけではない。となると三塁コーチャーである自分の判断を早くして、選手を信頼し、ホームに突っ込ませるのが得点への近道と考えました。

 例えば1死二塁。打球が外野に抜けたとき、ランナーが三塁を蹴る。自分は普段より1歩2歩前で左手を回しておきました。一般的にコーチャーは「引っ張る」と言って、ホーム側にステップしていって「ストップ」か「ゴー」の判断をギリギリまで延ばすことがあるのですが、きっぱりそれをやめることにしました。

 もちろん外野手の肩や、ランナーの走力も勘案するんですが、「いける」と思ったら、外野手が打球を捕る前に「ゴー」の判断をし、腕を回すことを意識したんです。そうするとランナーも「止まるか? 行くか?」という迷いがなく、ホームに突入できる。その結果、ランナーのスピードは落ちず、1歩、いや半歩の差で得点が取れるようになったんです。

文春野球学校開講!