文春オンライン

〈家族写真あり〉元EE JUMP・後藤祐樹はなぜ図工室を放火したのか? 幼い彼を“ワルの道”に導いた「父親の死」

『アウトローの哲学』 #2

2022/09/24
note

父との会話

「おい、祐樹。いつまで寝てるんだ、早く起きろ」

「まだ眠いよ、父さん。もうちょっと寝かせてよ」

「何バカなこと言ってるんだ。早く起きろったら。遅くなってしまうぞ」

ADVERTISEMENT

 日曜日の朝、僕と父の間ではこんなやりとりから一日が始まる。体を鍛えるのが大好きな父はその頃、山登りにハマっていた。時には母や姉ちゃんも一緒に行くこともあったが、たいていは父と僕、そして父と同じ会社の後輩の3人で山に登った。

 行く先もたいていは決まっていて、茨城県の男体山だった。標高654m。素人だって大して苦労することなく登ることができる。

 山道を歩きながら、父が話しかけてくる。

「最近、学校はどうだ。宿題はちゃんとやってるか」

「うん、やってるよ」

「そうか。偉いぞ」

 大した中身があるわけではない。ただ、そうして山登りをしながら、息子とコミュニケーションするのを父は楽しみにしていたのだろう。

 そろそろ山頂の近く、9合目くらいまで登ったところで父と後輩のおじさんは、岩の出っ張った崖の上から、50mくらいのザイルを垂らす。そして大人2人で下まで戻り、ザイルを伝って崖を登る。ロッククライミングだった。

「1時間くらいしたら上がって来るからな。お前は先に頂上まで行って、待ってろ」

「うん、わかった」

 そこから先は子供の足でも大した距離ではない。のんびりと頂上まで登って、母の作ってくれた弁当を食べた。そんなに高い山ではないけど、やはり山頂からの眺めは格別だ。自分の足で登って来た達成感もある。いい景色を眺めながら食べる弁当の味は、最高だった。

「僕、一人で来たの」

 山頂では他の登山者から話しかけられることも多い。子供が一人でこんなところにいるから、やはり目立つのだ。

「違うよ。お父さん達は今、崖を登ってるんだよ」

「そう。でも子供一人だけじゃ、怖いねぇ」

「怖くないよ。いつもやってるモン」

「そう。でも、気をつけてね」

 山の上では知らない人とでも自然に会話が始まる。人見知りの僕だったが、山ではこんなふうに普通にコミュケーションを取っていた。

 また、ザイル一本で崖を登る父さん達の姿もカッコいい、と思っていた。岩場にはそこにしか生えていないイワタケという山菜や、そこでしか咲いていない花もあるという。父はロッククライミングをしながら山菜を採ったり、花を眺めたりするのが楽しかったそうで、そういう話を目をキラキラさせながら僕にしてくれた。

「僕も早く、父さんみたいにロッククライミングしたいな」

「祐樹もそろそろ、始めてもいいだろうとは思うけど。でも母さんがうるさいんだ。もうちょっと大きくなるまで待ってな」