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山形 浩生
2018/01/17

デジタル産業革命が生んだ格差をどう解消すべきか

山形浩生が『デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか』(ライアン・エイヴェント 著)を読む

『デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか』(ライアン・エイヴェント著 月谷真紀訳)

 デジタルと人工知能で社会も経済も激変――そんな煽り本はいまや一山いくら。みんな機械に仕事奪われお先真っ暗、大量失業の格差拡大で社会崩壊! 果ては人類を凌駕したシンギュラリティ後に人類と機械の一大決戦などという三文SFまがいの主張すら散見される。そしてその解決策として挙がるのは、機械打倒のラッダイト議論、人間様の心だけは機械にわからないといった無知な手前味噌、あるいは機械に負けないお勉強で抜け駆けをといった目先談義ばかり。

 本書は、その視野の総合性も対応案も、そうした志の低い本とは一線を画する。二十世紀初頭も、産業革命で生じた格差を前に、所得の再分配手法の模索が課題だった。いまや再びそれを考えよう、と本書は主張する。

 本書の手柄は、かけ声だけに終らず、その根拠づけを実際にやってみせたことだ。社会や会社の成功は、構成員の教育水準や法制度だけでは決まらない。やる気や遵法精神など、社会や企業の風土たる社会資本(ソーシャル・キャピタル)が重要だ。そしてそれは、社会の構成員すべてが共有して初めて力を発揮する。

 だったら、それを根拠として再分配も正当化されるのでは? 企業の成功や各種イノベーションも、実は社会資本あっての成果だ。ならば成功の果実の相当部分を、社会資本への還元として再分配しては?

 そう述べる一方で、著者は金融緩和や公共投資、労使協議、ベーシックインカム、移民など、既存の所得再分配施策ほぼすべてに悲観的な見通しを投げつける。明解で親しみやすい書きぶりのため、気が滅入ることはないけれど、読み終えて途方にくれてしまうのも確かだ。最終章では人類の叡智への明るい期待が謳われるけれど、どこを叩くとこんな希望が出てくるのやら。でもそれはまさに、いまの世界が直面する困難の実像だ。年末年始でちょっとぼけた頭に活を入れる一冊としても、是非!

ライアン・エイヴェント/英『エコノミスト』誌で世界経済担当を10年、現在同誌シニア・エディター兼経済コラムニスト。その他「ニューヨークタイムズ」「ガーディアン」等一流紙に寄稿もしている。


やまがたひろお/1964年生まれ。評論家・翻訳家。大手シンクタンク勤務。主な訳書にピケティ『21世紀の資本』など。

デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか

ライアン エイヴェント(著),月谷 真紀(翻訳)

東洋経済新報社
2017年10月20日 発売

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