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【原画展開催】「転生後のベストチートは《普通》であること」80年代に異世界転生ジャンルを切り拓いた『ぼく地球』日渡早紀が令和の“なろう系”に思うこと

日渡早紀先生インタビュー#2

2022/10/18

genre : エンタメ, 読書

note

デビューから40年「自分の中でまだ膨らむものがある」

――日渡先生は今年、画業40周年を迎えました。デビュー4年目の1986年から『ぼくの地球を守って』を7年半連載。その後3作おいて、2003年から第2部『ボクを包む月の光』(略称:ボク月)を12年連載。そして2015年から第3部『ぼくは地球と歌う』(略称:ぼく歌)を、現在も連載中です。

 40年のうち、『ぼく地球』シリーズに取り組む期間が約30年。『ボク月』からは主人公が亜梨子から息子の蓮(れん)に変わり、次世代の話になっています。もはや、先生のライフワークのようですね。

2022年1月、日渡早紀・画業40周年記念企画として、東京タワーで『ぼくの地球を守って 』のイベントが開催された ©日渡早紀/白泉社

日渡 ライフワーク……なんですかねぇ? そう思ったことはないですが、これが最後の作品になったら結果的にそうなるのかもしれないですかね? 面白いですね。

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――読者が求めるから『ぼく地球』シリーズを描き続ける、という思いはありますか。

日渡 長く描き続けている作家さんは他にもたくさんいらっしゃいますが、私の場合は、読者さまに求められたからというよりは、自分の中で膨らむものがあったから着手した、という感じです。

 第2部の『ボク月』は、最初は読み切りだったのですが、『ぼく地球』の読者さまに感謝とお礼がしたかったから描きました。そういう気持ちが自分の中で膨らんだからです。

『ボクを包む月の光』©日渡早紀/白泉社

最新作『ぼく歌』は、加速したまま着地したい

――現在連載中の第3部、『ぼく歌』については、いかがですか。

日渡 『ぼく歌』は……『ボク月』を描くうちに、サージャリム(亜梨子の前世・木蓮たちの世界で信仰される創造神)の設定がむっくりと起き上がったからですね、私の中で。そして、「コイツは何者なんだ?」という気持ちが膨らんだからです。

――『ぼく地球』を読んでいた頃は、まさか30年後も続くシリーズになるとは思いませんでした。

日渡 ありがとうございます。私も思っていませんでしたよ(笑)。

『ぼくは地球と歌う』©日渡早紀/白泉社

――かつての『ぼく地球』読者の多くは、「80~90年代の名作マンガ」という記憶で止まっているかと思います。でも第3部の『ぼく歌』を読むと、解決済と思っていた謎が、2022年の今、まさにナマで起きている事件として迫ってきて、大きな驚きと感動があります。

『ぼく歌』は、3作のうち最も躍動感とスピード感に満ちた印象です。先生は『ぼく歌』について、意識的に変えた部分はあるのでしょうか。

『メロディ』2022年2月号(白泉社)

日渡 本当ですか? 掲載誌『メロディ』が隔月刊ですし、私自身が描くスピードも年齢と共に落ちているので、そう言っていただけると、涙出そうなくらいうれしいです。

 実は、加速して展開しないと、体力的問題で描けなくなっちゃうみたいな危機感を持ってまして。何としても着地しなければ……と思っております。