文春オンライン
「死者が生還した!」“自家がんワクチン”「脱法」広告の実態  エビデンスは不十分でも開き直る開発・製造会社の欺瞞

「死者が生還した!」“自家がんワクチン”「脱法」広告の実態 エビデンスは不十分でも開き直る開発・製造会社の欺瞞

2022/11/16
note

セル社の全面勝訴という報告は「間違っている」

「自家がんワクチンの有効性を争点にしていなかったので裁判所は、判決で触れませんでした。ただし、治療費の全額返還を認めた東京高裁の判決は、少なくても“末期がん患者に自家がんワクチンは有効である可能性すらない”と示していると思います。ですので、セル社が全面勝訴したとか、『有効となる可能性があると公式に認められた』という報告は間違っています」


 自家がんワクチンのサイトには「有効性に関する科学的根拠は、多数の学術論文に示されている」とある。また、冒頭で触れたように「専門家も驚いた症例の数々」として、治療前後を比較した画像を付けて“治った”ケースが紹介されているが、臨床研究の第一人者・植田真一郎氏(琉球大学)はこう解説する。

「死が迫っている患者にとって“がんが消えた”ケースを画像付きで見せられると、強い説得力があるでしょう。しかし、治ったとされる症例の大半は、標準治療との併用です。本当に自家がんワクチンの“上乗せ効果”なのか、検証できません。また、論文はヒストリカルコントロールという、過去の研究で得られた数字との比較が多く、都合のよい結果に導けるものです。信頼性が低く、科学的根拠としては不十分です」

ADVERTISEMENT

患者向けに配布されている「自家がんワクチン」の資料

 国が保険診療として承認した、がんの「標準治療」は、有効性が臨床試験で確認されており、現時点では“最善の治療”といえる。ただし、それでも限界はあって、治らないケースは少なくない。だからといって、未承認である自由診療の免疫療法が、標準治療よりも優れた治療法である、というエビデンスは何もないのだ。

 月刊文藝春秋12月号には、自家がんワクチンの治療後、体調を悪化させた男性に担当医がとった信じがたい対応などを詳しく記しています。

*1:乳がんの治療標的となる三つの受容体が欠如しているタイプで、全乳がんの約20%を占める。他のタイプの乳がんと比較して、高い再発率、再発後の急速な進行が特徴で、予後が不良。

「死者が生還した!」“自家がんワクチン”「脱法」広告の実態  エビデンスは不十分でも開き直る開発・製造会社の欺瞞

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー