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「スイカ割りのように顔と頭をめった打ちにしました」きっかけは“1万円の金銭トラブル”…寝ている両親をバットで撲殺した20歳青年の無慈悲

『昭和の凶悪殺人事件』 #4

2022/12/30
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 Y署に設置された捜査本部では、そのような結論に達し、浩二を自供に追い込むための準備が進められることになった。

 初日の事情聴取を終えて浩二を伯母宅に帰宅させる際、「明日、検証令状で君や兄さんの部屋を見せてもらう」と言うと、彼が一瞬、顔色を変えたことを、取調官は見逃していなかった。さらに、浩二が所有する金属バットの所在を追及したところ、回答が曖昧で、しばしば答えに詰まっていたことなども、捜査会議では報告されていた。

 どうやって浩二を自供に追い込むか。捜査員のその思いは、意外なかたちで解決することになる。

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 伯母宅にいた浩二に対して、捜査本部がふたたび任意同行を依頼した際、疑問に思った別の叔母が浩二に「警察が浩二君にまた話を聞きたいと言ってきたわよ。(犯人は)まさか浩二君じゃないでしょうね?」と問いかけたのである。すると浩二は「あまり話したくない。いまにわかるよ」と答え、その発言に疑惑を抱いた叔母に追及されると「うん、ちょっとあってね」と、犯行を認める発言をしたのだった。

 驚いた叔母は自身の姉(浩二の伯母)に連絡し、伯母が被害現場で立ち会いをしていた浩二の兄に電話を入れ、「浩二が殺したんだって。早く警察の人に話して」と伝えたのである。

「刑事さん、いま伯母から電話がありまして、浩二が殺したらしいと言ってきました」

 兄からそのことを聞いた捜査員は、こうした事態を予測していたため、平然と「わかった」と頷くのみに留めた。

 この段階ですでに、浩二の部屋の押し入れ上の天袋からは血液反応のある金属バットが見つかっており、押し入れの整理ダンスの裏からは、血液が付着したズボンとランニングシャツが発見、押収されていた。浩二の犯行であることは、彼の自供がなくとも証明できる状態だったのである。

スイカ割りのように何度もめった打ち

 暖簾(のれん)に腕押し──。

 取調官の問いかけに対して、浩二は常に無表情で、動揺を見せずにいた。みずからの犯行について淡々と語る。

「小遣いの足しにするため、父親の定期入れからキャッシュカードを抜き取り、1万円を引き出してウイスキーなんかを買った。その夜、カードを元の場所に戻そうとしたが、見当たらなかったので、2階の自分の部屋に隠していた。すると、夜になってゴルフから帰ってきた父親に呼びつけられて、『キャッシュカードがなくなってる。お前だろう。財布からもちょくちょくカネがなくなってる』と責められた」

写真はイメージです ©iStock.com

 その際に、母親の由美だけは自分の味方だと思っていたが、彼女からも責められたのだという。

「キャッシュカードの件は認めましたが、現金は盗(と)っていないと否定すると、母親から『ふざけている場合じゃないでしょう。あんた以外に誰が盗るの』と叱られ、母親だけは僕を信じてくれると思っていたのに、腹が立ちました……」