新卒から、中小菓子メーカーの総務畑で働き続けて30年。まもなく50代の独身女性が、ひょんなことからぬか漬けを始め、少しずつ生活が好転していく物語『どうぞごじゆうに~クミコの発酵暮らし~』(月刊『フォアミセス』で連載中)。職場でのジェネレーションギャップや、忍び寄る更年期障害など、この年齢特有の悩みを“ぬか漬けライフ”とともに描く本作に込めた思いを、作者のいのうえさきこさんの、自身の経験とともに語っていただきました。
◆ ◆ ◆
漫画とぬか漬け作りは似ている
――主人公のクミコさんがぬか漬けを始めるきっかけは、「母の妹の配偶者のお姉さんからツボが届く」という、ミステリーっぽい展開ですが、50代の女性の悩みを、ぬか漬けをモチーフに描こうと思った理由を教えてください。
いのうえさきこさん(以下、いのうえ) この作品の一番のキーワードに、「不安」というのがあって。子どももパートナーもいないクミコさんは、年齢的に体にガタが来始めたとき、これといって先立つものがない。そんななかでお金持ちの遠縁の方から、価値がありそうな壺を譲り受けるわけです。不意打ちのラッキーと思ったのもつかの間、中にはぬか床が入っていて、「面倒くさいものを押し付けられちゃったな……」と落とされてしまう。
要は、無理やりお世話をさせられる状況を作りたかったんです。主人公は遠縁のおばさんの歴史を背負っているので、腐らせるわけにはいかない。私は私でこの漫画を描き始めるのを機に、人生で4度目のぬか漬け作りに挑戦しているのですが、どちらも使命感があるところは似ていますね。私のほうはぬか床を1年キープして、ようやく肩の力が抜けてきて、最近は猫の毛並みをなでる感覚でぬか床に触れています。
更年期障害による不安をぬか漬けが癒してくれた
――クミコさんがぬか床を育てていく過程で、いろんなことに気づくのが印象的です。仕事の愚痴をこぼしながらぬか床を混ぜたり、次々にいろんなものを漬けてぬか床を疲れさせてしまったり……。