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《男女をひっくり返すとよりよくわかること》再ドラマ化『大奥』原作者・よしながふみインタビュー

今年1月に再びドラマ化。徳川家の女将軍が熱く支持されるわけは? 漫画家・よしながふみ氏のインタビュー「『大奥』は全部女の痛快な世界」(「文藝春秋」2023年2月号)を一部転載します。(聞き手・南 信長)

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描き始めたときには「5巻ぐらいで終わるだろう」と…

〈『大奥』『きのう何食べた?』などで人気の漫画家・よしながふみ。江戸時代を舞台に男女逆転社会を描いた『大奥』は、疫病やジェンダーなど、現代にも通じる諸問題を扱い、手塚治虫文化賞、小学館漫画賞、日本SF大賞ほか多くの賞を受賞した。〉

――足かけ18年にわたる『大奥』の連載を一昨年完結されました。家光の時代から明治維新まで200年以上の歴史をよく描き切られたなと。

 よしなが 全体の構想は最初からあったんですが、描き始めたときには舐めていて「5巻ぐらいで終わるだろう」と思っていたんです。ところが、1巻分描いたところで「これはダメだ、思っていた倍はかかる」と。で、10巻近くになってまた「ダメだ、終わらない。でも20巻は行きたくないな」と思って、ギリギリ19巻で終わりました。半ばぐらいで「これは長くなりそう」と、ちょっと気が遠くなりましたね。

――20巻は行きたくないというのは、どうしてですか。

 よしなが 自分が好きだった漫画もそんなに長大なものはなかったので。私は『ベルサイユのばら』(池田理代子)が大好きだったんですけど、たった9巻で10巻は番外編なんです。それであれだけのことが描けるのだから、と。あと、少女漫画は20巻を超えると売れ行きが悪くなるというのも正直あって(笑)。

――「赤面疱瘡(あかづらほうそう)」という若い男子のみが感染する致死率の高い疫病の流行によって男子の人口が激減。その結果、男女の社会的役割が逆転し、労働力として社会を維持するのも家督を継ぐのも女、将軍も女が務め、大奥は男の園に……という設定で始まります。いわゆるジェンダー論的な部分がテーマかと最初は思ったんですが、巻を重ねるうちにむしろ政治と権力のドラマのように見えてきました。一番核になるテーマは政治の部分だったのでしょうか。

 よしなが それは描いてみた結果そうなった感じですかね。最初の家光のところでは恋愛もののつもりだったんです。途中で赤面疱瘡のワクチン開発の話になって、政治の話にもなる。お重箱じゃないですけど、一の重、二の重と開けていくとちょっとずつ景色が違うような、読者さんが飽きずに最後まで読んでもらえることを第一に考えました。

女王や女性首相に女将軍!?

――通読すると、ここに描いてあることが本当の歴史だったんじゃないかと思ってしまうぐらい、うまく構成されているなと感嘆しました。

 よしなが 本当の歴史を下敷きにしている部分もすごくあるので。一番ウソをついているのがワクチン開発のところで、それ以外はわりとそのまま男女逆転させただけなので、史実に助けてもらった感じです。

『大奥』から ©よしながふみ/白泉社

――史実があるから描きやすい部分と描きにくい部分があるかと思うのですが、そのへんはどうでしょう。

 よしなが 基本的に描きやすかったです。描きにくいところがあるとすれば、自分だと考えつかないようなことをやる人たちがいるところ。やった事実は変えられないので、それをどう自分のキャラクターに落とし込むかというのが難しい部分はありました。家茂なんかもそうで、調べても嫌なところが全然出てこない何の特徴もない将軍で。しかも若死にしちゃうので資料も少なくて、漫画のキャラクターとして作るには物足りなかったんです。でも、じゃあ思い切ってすごくいい子にすればいいのかと思って、何の欠点もない可愛い女の子で描いたら、それはそれで楽しかったので、「なんだ、別にそんなわかりやすい欠点とかいらないのか」と勉強になりました。