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赤面疱瘡と新型コロナ

『大奥』より ©よしながふみ/白泉社

――それともうひとつ、もちろん偶然ではあるんですけど、今読むとどうしても赤面疱瘡と新型コロナが重なって見えてきます。

 よしなが コロナは世界中で蔓延して日本も関係あるので、今私たちはコロナだけ注目していますけど、『大奥』を始める前にお医者様にお話を伺ったときは、エボラ出血熱が記憶にまだ新しい頃でした。SARSもたまたま日本ではそんなに広がりませんでしたけど、地域によっていろんな感染症が繰り返し流行している。これからも新しいウイルスが出てくるスピードが速くなることはあっても、なくなることはないだろうと感染症の先生がおっしゃっていた。ただ、その中で天然痘だけが唯一人間が打ち勝った病原体で、一例でもそういう経験があるのは人類の希望だから、みたいな話になって、1回の成功体験って大事だなと思いました。18世紀の終わりにジェンナーが種痘を開発しているので、それをヒントに赤面疱瘡の予防法が考案される流れになりました。

――『大奥』には大勢のキャラクターが登場しますが、その中で特に思い入れが強いのは誰ですか。

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 よしなが 将軍の中では家重という身体が不自由だった人に一番思い入れがあります。知的障害があるように思われているけれど、言葉が不明瞭だっただけで頭は働いていた。実際の家重もそうだったみたいで、お付きの人しか言葉を聞き取れなかったというんだけど、その人が聞き取れたということは、ちゃんと理屈の通ったことを言っていたんじゃないかと。将棋がすごく好きだったという話も残っています。でも、家臣たちにはバカにされていただろうから、すごく悔しかったでしょうね。

 一方で、身体に障害のある人が国家権力の頂点に立てるというのは平和であることの証拠だし、世界的にもあまり例がないので、むしろ日本としては誇っていいのだというふうに書いていた本があって、本当にそうかもなと思いました。それは官僚機構のシステムが確立しているということでもあるし、さっきの天然痘の話と同じく前例があるということはすごく大切で、1回でもできたということはこれからもできるという希望だと思うんです。

漫画家・よしながふみ氏のインタビュー「『大奥』は全部女の痛快な世界」全文は、「文藝春秋」2023年2月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されている。

仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみ

よしながふみ ,山本文子

フィルムアート社

2022年7月26日 発売

文藝春秋

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