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《男女をひっくり返すとよりよくわかること》再ドラマ化『大奥』原作者・よしながふみインタビュー

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――先頃、初のインタビュー本『仕事でも、仕事じゃなくても』(フィルムアート社)を出されました。仕事と人生について語り尽くされた本ですが、『大奥』に関して「女性が働いていることが普通である社会を描きたくて」と語られています。

『仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみ』(フィルムアート社)

 よしなが そのほうが面白いと思ったからです。女性向け漫画誌の連載でしたし、女が将軍というのは痛快だろうと。現実でも女王や女性首相はいますけど、トップだけじゃなくて補佐官も下っ端の役人も全部女というのはなかなかないですし。忠義心というか、「命を懸けてこの人を将軍に押し上げたい!」みたいな気持ちは女同士でもきっとあると思って。今は「推し活」という言葉がありますけど、推しを輝かせたい気持ちに男女の区別はないはずです。

――女将軍たちは必ずしもなりたくてなったわけじゃないんだけど、そこで人間的にも政治家的にも成長していくという一種のビルドゥングスロマンになっています。

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 よしなが そうですね。でも、どっちかというと描いてみてわかった感じです。逆に、たとえば家光編の有功(ありこと、お万の方/作中では男性)はすごく立派な人なんだけど、ずっと大奥にいるとできることが限られているので、彼はまったく成長しないまま将軍としての務めを果たしていく家光にどんどん追い越されていくような感覚に陥る。それで最後は自分に仕事をくれと言って大奥総取締役になって仕事人になるわけです。役割を与えられない人の苦しさみたいなものが男女をひっくり返すとよりよくわかると思いました。

――「地位が人を作る」みたいなところもありますね。

 よしなが あると思います。それを女の人で描けるのはすごく楽しかった。家光なんか決して自分で望んでいないのに、やっぱりそういうことになるというのが面白くて。人間としてはちょっと欠けたところがあるけれど、国家の確立のためにはすごく的確な判断が下せる、という。そのへんは実は本物の家光像をわりとそのまま採り入れています。

江戸時代だったら「政」の大切さは描ける

――作中の将軍たちは、なかにはちょっとダメな人もいますけど、だいたいちゃんと国のことを考えて仕事をしていく。それに比べると、今の日本の政治家があまりにも頼りなく見えてしまうのですが、よしながさんはどうご覧になりますか。

 よしなが でも、みんなが選んでいるんでしょう。これがまさに今の日本の民主主義の結果なんじゃないですか。いつも思うけど、投票しましょうよって。子育て世代や若い人たちが投票しないから、政治家がその人たちに向けた政策を打ってくれないわけで、若い人たちが票田だとわかれば、どの政党が政権担当することになっても絶対に若い人の機嫌を取ってくれるはずなんです。だから、まず投票しましょうよ、と。そこから積み上げた先に政治家がいるんじゃないかと思うので。みんなが見てるよってなれば、同じ人がやっていたとしても、違う結果になるかもしれないと思いますし。

 でも、それは漫画だけじゃないけれど、物語にも責任があるのかなとちょっと思っちゃいます。政治家というと、とにかくお金に汚くて、自分たちのことしか考えてなくて、国民のことを考えてる政治家なんていないというふうに物語が繰り返し描いてきちゃったところがある。有名人が「政治家に転身します」というとガッカリしちゃう、みたいな。だけど、本当はすごく大事な仕事なので、「政治家になりたい」という人はもっと応援してあげてもいいし、「(週刊少年)ジャンプ」とかでそういう漫画が出てくれたら違うんじゃないかと思ったり(笑)。

――『ヒカルの碁』(原作/ほったゆみ・漫画/小畑健)で碁をやる子供が増えたみたいに、政治家がカッコいい仕事ということになれば。

 よしなが そうなんですよね。でも、私も江戸時代だったらこうやって政(まつりごと)の大切さは描けるけど、現代ものでやれと言われると難しいかも。面白い漫画にできるのかどうか。どうしてもパワーゲームの面白さみたいなところに行っちゃう可能性がありますよね。国のために何をするかじゃなくて、どうやって派閥の敵を引きずり下ろすか、みたいな。