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「スーパー戦隊VS.敵という境界線は引いていない」“異色戦隊物”に見る現代社会の“グレーな部分”《大人がハマった『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』》

プロデューサー・白倉伸一郎氏インタビュー#2

note

戦隊チーム内の不倫関係も臆さず描く

 ──『ドンブラザーズ』では、三角関係、四角関係、ともすれば不倫に見える恋愛が描かれています。これまでのスーパー戦隊シリーズでは、このような恋愛模様はあまり見かけないと思うのですが……。

白倉P シリーズ全体でいうと、『鳥人戦隊ジェットマン』(’91~’92)では、戦隊チーム内の三角関係や、敵幹部に元恋人が……というドロドロ恋愛を、延々とやっています。ただ、これはレアケースですね。

『鳥人戦隊ジェットマン』は、1990年代のトレンディドラマ全盛期に放送された作品で、「戦うトレンディ戦隊」とも呼ばれた。白倉氏がプロデューサー補を、当時若手実力派として台頭してきた井上敏樹氏がメインライターを担当。これは『ドンブラザーズ』と同じ座組 『鳥人戦隊ジェットマン』DVD-COLLECTION VOL.1/ TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)

──今回は、1人の女性をめぐって、戦隊チーム内の2人が争います。

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白倉P 人物設定の話になりますが、ドロドロ恋愛劇の要になるのは、戦隊チームの犬塚翼(イヌブラザー)です。

 彼は逃亡者なので、基本的に単独行動です。でも、本当に勝手気ままに行動してしまうと、他の登場人物とは関係しないことになる。それは、さすがに我々も困るんです(笑)。

──話が回収できないですね。

白倉P ですから、犬塚と他のレギュラー登場人物とのリンクをつくっておく必要がありました。

雉野つよしの妻・みほと犬塚翼の恋人・夏美は同一人物で、犬塚はみほを見て夏美だと気づく。しかし、みほは犬塚のことを知らなかった。そして、ドンブラザーズの仲間である犬塚と雉野の関係は悪化する Ⓒテレビ朝日・東映AG・東映

 ただし、単に仲がいいだけではドラマにならないので、恋愛要素を入れて、「犬塚翼の行方不明になった恋人・夏美」=「雉野つよし(キジブラザー)の愛する奥さん・みほちゃん」となりました。これは放送開始後、第5~6話あたりで追加された、後付けの設定です。

戦隊メンバーの「妻」がストーリーを牽引

──物語が終盤に近づくにつれ、敵味方を超えた愛憎のもつれに発展しています。

 犬塚と雉野、そして夏美とみほ。さらに、ソノニ(脳人の紅一点。人間の愛に関心を抱く)も加わって、5人の糸が絡み合うという。見ていると一瞬、スーパー戦隊シリーズであることを忘れそうになります(笑)。

【解説】戦隊チーム内のドロドロ三角関係、脳人を巻き込んだ四角関係

 

Ⓒテレビ朝日・東映AG・東映

 犬塚翼の元恋人・夏美と、雉野つよしの妻・みほ(いずれも新田桃子)は瓜二つだが、みほは犬塚のことを知らない。そこで雉野家を訪れた犬塚は、雉野夫妻の前で、かつて夏美と交わしていた合言葉のようなセリフ「……等(など)と申しており」を呟く。

 

犬塚(右)とソノニ Ⓒテレビ朝日・東映AG・東映

 その瞬間、みほの表情が一変。夏美としての記憶を取り戻し、犬塚と共に逃げ去る。残された雉野は心に闇を抱え、人形を「みほちゃん」と呼ぶホラー展開に。さらに、脳人(ノート)のソノニが登場。夏美に一途な思いを寄せる犬塚に関心を抱き、彼に近づくが……。

白倉P 確かに、彼らの恋愛パートは、当初の想定よりもだいぶ太い軸になっています。

 普通のスーパー戦隊シリーズは、チームメンバーの5~6人がメインストーリーを引っ張っていくんです。でも、初めは「ピンク戦士の家族」というポジションだった雉野の妻が、話の中心になってしまうあたり、『ドンブラザーズ』の恐ろしいところですね。

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