大伸ワークサポートの募集広告が掲載された第2号が発刊されると、ポツポツと反響が届き始めた。僕はこの雑誌を実質的にひとりで作っている三宅に会ったとき、当時の印象を尋ねてみた。
「わずか2ページの募集広告なのに、大伸ワークサポートの魅力が伝わってくる内容で、応募者たちへの熱意を感じました。たとえば写真にしても、現場で働いているところと併せて社員旅行やバーベキューなど楽しそうな場面が載せられている。その後わかってくるのですが、出所後の職を探そうとする受刑者たちは、給与や仕事内容だけではなく、職場の雰囲気を気にしているんです。とくに家庭的な温かさに飢えていますから効果絶大だったと思います。もうひとつは廣瀬さんからのメッセージですよね。あれは素晴らしかった」
「私は決して見捨てたり見放したりしません!」
そこには、社長自身が元暴走族総長で逮捕歴、刑務所の入所歴があることが記され、文末は出所後の生活に不安を抱く受刑者たちが「ほぉ」と感嘆の息を漏らしてしまいそうな一節で締めくくられていた。
〈私は決して見捨てたり見放したりしません! 私自身もやり直すことができたのだから、人は誰かの支えで必ずやり直すことができるのです。その支えになることができたら、こんなに嬉しいことはありません〉
つたないなりに雇用主としての覚悟と気合を伝えたかったと廣瀬は照れるが、僕が受刑者としてこの文章に触れたら信じてみたいと思うだろう。
「三宅さんからもいいと言われて、その後もずっと使っているんですが、受刑者から届く手紙にも『この文章で社長の人柄がわかりました』とか『ここに行こうと思いました』と書かれていることが多いですね」
見下されても警戒されても、へこたれずにやってきた。大きな家族みたいな小さな会社を作り、男たちの胃袋をがっちりつかんで、みんなの母ちゃんになろうとしてきた。敷地にプレハブを建て、新しい仲間を受け入れる準備をしてきた。
「彼女に会わなかったら、いまの私には絶対なれてない」
足りないのは、「私があなたを待っている」と呼びかけるツールだけだった。過去は変えることができないけれど、未来は変えられる。その手伝いをしたいと伝える手段がなかった。
そんなとき、困っている廣瀬に手を差し伸べるように『Chance!!』が創刊された。これは運命だ。チャンス到来だ。
ほしくてたまらなかったのに、手に入れることが叶わなかった最後のピースが、カチッと音を立てて埋まり、パズルが完成した。
「たくさんの反響をいただいて、軸足が定まったというのかな。私は見捨てませんと宣言したんだから、あとはやるだけでした。三宅さんには感謝しかありません。奇跡が起きたんだと思う。彼女に会わなかったら、いまの私には絶対なれてない」
絶妙のタイミングで出会ったふたりの友情は雑誌編集長とクライアントの垣根を超えて深まっていった。僕が「親友ですね」と言ったら「そうじゃなくて戦友」と訂正されるくらいに。