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韓英恵「撮影は埼玉の廃校で。思い出すだけで怖い体験」

映画『霊的ボリシェヴィキ』――クローズアップ

2018/02/09
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『リング』(98年)の脚本も手がけたホラー映画の世界的巨匠・高橋洋の新作『霊的ボリシェヴィキ』がいよいよ公開だ。霊に触れた7人の男女が人里離れた廃墟に集まって行う心霊実験を描く。観客は恐怖の追体験をし、血も凍る結末を味わうはずだ。ホラー初主演の韓英恵さんは幼少期に神隠しに遭った由紀子をリアルに演じきった。

「私、極度の怖がりなんで本当はぜーったいに出たくなかったんです! だけど高橋監督が放った『韓さんはそのままでいい』という一言で決めちゃった。10歳で鈴木清順監督の『ピストルオペラ』(01年)に出演した経験が大きいのかも。清順監督はとても怖いって伺ってたのに、すごく可愛がってくれました。演技も身振り手振り指導して下さったんです。その時、『お嬢ちゃんね、ただいるだけでいいんだよ』って。この一言に今も支えられてますね」

 タイトルのボリシェヴィキはロシア革命の指導者、レーニンが率いた集団を指す。この唐突とも思える不思議な題名の意味は?

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「霊を信じる人達が革命を起こそうとしているんですが、未だにちゃんと理解してないかな(笑)。ただ、集団が狂信する怖さは理解出来ます。ニュースを見ても、お化けより人間が怖いですよ」

 撮影は埼玉県の廃校舎で冬場に行われた。控室も暖房もない苛酷ともいえる場所での強行軍だった。

「たとえば是枝裕和監督の現場では、自分が言いやすいように台詞を変えて演じてた。今回はきちっと脚本通りに喋るという演出ですごく難しかったです。霊体験者という完全に虚構の人物を演じるのも初。なので毎回、監督を質問攻めにして周りのスタッフは『韓さんが怒ってる』って(笑)。共演者の長宗我部陽子さんたちと、お喋りしながら役を掴んでいきました。寒い廃墟で長宗我部さんたちから怖い話を聞かされ続けると、現場全体が不穏な空気に。撮影中、機材トラブルとかあると『霊的だ』と言ってたんですが、まさにそんな雰囲気に私も感染しちゃった。宿泊先に帰っても身体が重い、壁の向こうに何か感じる……ああ、思い出すだけで怖いっ!」

 映画出演の前後で心境の変化が韓さんに訪れたという。

「韓国籍の女優として、日韓の架け橋にならなくちゃと肩に力を入れて活動してきました。役作りも実体験に重ねてのめり込みがちだったので、撮影の度に辛かった。それが海外の映画祭に参加したり、ホラーに主演して映画って楽しむものだと思えるようになった。今回の作品で革命歌をロシア語で歌ってるんですが、辛くなるほど音痴な自分まで楽しめるようになりました(笑)。その場面はスルーして頂き、ぜひ純粋に怖がって下さい!」

かんはなえ/1990年、静岡県生まれ。2001年に鈴木清順監督作『ピストルオペラ』で俳優デビューし、各紙誌でその存在感を絶賛される。以後、映画出演を中心にして活動を続けている。主な出演作に『誰も知らない』『悪人』『マイ・バック・ページ』『知らない、ふたり』『蜜のあわれ』など。

INFORMATION『霊的ボリシェヴィキ』

2月10日(土)より渋谷ユーロスペースほかで全国順次公開
https://spiritualbolshevik.wixsite.com/bolsheviki

取材・構成:岸川真

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