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「何回か倒れて、ノドに注射を打って」私生活では2児のシングルマザー…「エヴァ」アスカ役・宮村優子の“苦労人すぎる人生”

「何回か倒れて、ノドに注射を打って」私生活では2児のシングルマザー…「エヴァ」アスカ役・宮村優子の“苦労人すぎる人生”

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2023/04/06

genre : エンタメ, 芸能

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「ただの記号論なんですよ、セルなんて。マーカーでアスカの絵が描いてあって、そこから宮村優子の声がすれば、もう十二分にアスカなんですよ」

 庵野秀明が『月刊Newtype』のインタビューでそう言ったのはもう二十数年前の1996年6月号、最終回26話が放映されてファンの間で大論争になった直後のことだ。それはセルアニメーションにこだわるアニメファンを痛烈に批判し、これはただの紙に描かれた絵だ、現実に帰れと突き放す当時の有名な文脈の中で出た発言ではある。

 だが逆に言えばその言葉は、日本のアニメーションにとって声優という存在がどれほど大きな存在であるか、キャラクターの身体性とヒューマニティ、アスカがアスカである自己同一性が宮村優子の声によってかろうじて視聴者と繋がれていることを意図せずに吐露した作り手の告白にもなっている。

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 エヴァンゲリオンのアフレコにおける庵野監督のこだわりを知らないファンはいない。多くのドキュメンタリーや声優たちのインタビューで、通常作品では考えられないほどのリテイクが重ねられ、キャラクターが首を絞められたり水を吹き出すシーンでは声優もマイクの前でそのシミュレーションをしながら、魂を差し出すような演技が求められる収録の様子が語られている。

 2023年3月31日、NHKBSプレミアムで『ドキュメント「シン・仮面ライダー」~ヒーローアクション挑戦の舞台裏~』が放送された。「段取りなんかいらないですよ」「もう全部アドリブでやって欲しいくらい」とアクションにリアルさを要求する庵野監督に対し、「それを役者に僕はやらせられない」と困惑するアクション監督。それは過去に語られたエヴァンゲリオンのアフレコの逸話の数々と共通する庵野演出の手法だ。   

 殺陣の撮影中、敵役に右ストレートが当たってしまい、俳優が倒れ込むというアクシデントが起きたシーンを、それまでOKを出さなかった庵野監督が気に入ったと聞いた主演の池松壮亮は半ば困惑しながら、「アニメーションに勝てるとしたら『肉体感』と『生っぽさ』しかないと思う。そういうところを探して反応してるんだな」とつぶやく。庵野演出の光と闇を的確に把握した言葉だ。

 そして「(僕は)実写映画の中で本物が出来るのは役者だけだと思う」と同ドキュメンタリーで語る庵野監督が、アニメ表現であるエヴァにおいて、「肉体感と生っぽさ」「本物のリアリティ」を求めた相手は、まだ若い当時の声優たちだった。 

続く「エヴァンゲリオン」声優たちの告白

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の公開のころ緒方恵美の自伝的エッセイ『再生(仮)』が刊行され、その濃密な内容が話題を呼び、版を重ねた。

 この春、来年の大河ドラマ『光る君へ』に出演が決まっている三石琴乃のエッセイ『ことのは』が出版され、そして同じ月に宮村優子の対談集『アスカライソジ』も刊行されている。90年代を席巻したエヴァンゲリオン声優たちの回顧録、告白が続いているのだ。

 テレビ版の『新世紀エヴァンゲリオン』がスタートする時、碇シンジ役の緒方恵美や葛城ミサト役の三石琴乃はすでに『美少女戦士セーラームーン』を支えるスター声優だった。

 シリーズをスタートさせるにあたり、庵野秀明は業界の慣習を破って、本人との直接交渉までして緒方恵美に碇シンジ役を望んだことが『再生(仮)』の中で語られている。綾波レイ役の林原めぐみに至っては、当時すでに人気実力ともに声優界のカリスマの1人だったと言ってもいいかもしれない。