『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイをはじめ、『名探偵コナン』の灰原哀や『スレイヤーズ』のリナ=インバースなど、数々の人気キャラクターを演じてきた林原めぐみさん。ほかにも『らんま1/2』女らんまや『ポケットモンスター』シリーズのムサシなどを演じ、世代を超えて愛されている声優の一人だ。

 そんな林原さんは、自身の演じたキャラクターとどのように向き合ってきたのか。ここでは、林原さんの著書『林原めぐみのぜんぶキャラから教わった 今を生き抜く力』より一部を抜粋して、綾波レイというキャラクターに向き合った際の葛藤について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む

林原めぐみさん

◆◆◆

ADVERTISEMENT

感情を知らない

 今でこそ、謎めいた無口なヒロインは、数多く世に放たれましたが、当時はあそこまで言葉数の少ないキャラクターは例がなく、参考に出来る人物も見当たらず、彼女と向き合うことに途方に暮れていました。

 一言発すれば、「もっと抑えて」「言葉が出すぎている」との演出。一見「抑えて」とは技術的に声を潜めることで要求に添えるようにも思えますが、それでは彼女になることはできない。なぜ、声を抑えるのか。なぜ、言葉を出さないのか。その「なぜ」の部分が私の中で腑(ふ)に落ちないと、音には出来ても肉声にはならない。

 アフレコ現場で、庵野(秀明)監督に、彼女のひととなりについて疑問をぶつけると、「レイは、感情がないわけではなくて、感情を知らない」との指示。

「??」

 だから? どうすればいいの?

 ときどきこの仕事は、名もなき壺(つぼ)作りの職人のようだな…と思うことがあります。

「床の間に飾る、ちょうどいい感じの壺が欲しい」とクライアントに言われたとして、どんな床の間? 光は? 掛け軸は? クライアントの趣味は? あなたにとってちょうどいいとは? 

 床の間にちょうどいいとは、ひっそりと厳かな雰囲気なのか、それとも一目でお客様の目を引く美しさなのか、土は? 色は? 輝きは? …と、探りながら練りあげる。そして、修正しながら、仕上げていく。仕上がったからといっておしまいではなく、その場に威風堂々と存在し続ける役目も担う。

 最初のテレビシリーズの『エヴァンゲリオン』のアフレコは、その「ちょうど」を探すために、みんなそれぞれ、どこか疲弊していましたね。

 話が逸れましたが、改めて「感情がないわけではなく、感情を知らない」とは、一体どういうことなのか…。