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「感情がないわけではなく、感情を知らない」林原めぐみが綾波レイを演じる過程でたどり着いた“人間の表と裏”

『林原めぐみのぜんぶキャラから教わった 今を生き抜く力』より#1

2022/07/22
note

 そもそも感情とは何か、どこから生まれるものか、ないわけでなく知らないということは、知っていくことでどう変化するのか――。もう出口がない迷路に入り込んでしまったような、哲学のような、ただの自問自答のような、ちょっとだけ、いやかなり、心が病みました(笑)。

 当時、レイと歩くためのヒントを、さまざまな心理学の本やスピリチュアルな本によって補おうとしましたが、あまりに学術的すぎて、有名ではあっても参考にはならなかった本も数多く、何ページも読み進めることなく断念した本もありました。もともとその手のジャンルは好きではありましたが、心や、感情や、心理なんて、人の解釈によって変わるものだし、そもそも形のないものの答えなんて、そうかんたんに手には出来ないものです。

 それでも、乱雑に読んでいく中で私なりに得たもの。それは…?

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©iStock.com

感情とは何か――人間の表と裏

 人は噓をつく生き物だということ。

 そんなことは誰でも知っている、わかっている。ただ、その噓をつく相手は、なんと! 「自分」だってことです。

 自分に上手に噓をついて自分をごまかして、体面を保っていることに気が付いていない人は意外と多い。っていうか、実は、ほとんど。

 わかりやすい例をいくつか。

 (1)いつも何かと「胃が痛い」と言っている人がいて、いい医者や薬を紹介しても忙しいからとか、理由をつけて一向に病院へは行かないとします。でもその人はいつも「つらい、良くなりたい、どうすれば?」と、嘆いています。でも病院に行かない、薬も飲まない。

 だとしたら…それはもう、根本的には治りたくないんですね。でもそんなこと本人に言ったら大変!

「お前に何がわかる、血を吐いたこともあるんだぞ」

 すごい剣幕で怒られることもあるでしょう。確かに99%治りたいのは本当。でも、深層心理の1%が治りたくない。治ってしまったら、「大丈夫ですか?」と気にかけてもらえなくなるかもしれない。ちょっとした遅刻やミスを許してもらえなくなるかもしれない。「1%の治りたくない」が、同じ場所に居続けさせてしまう。そして、それを本人は全く自覚していない。まさに自分で自分に噓をついてしまっている状態。

 もちろん、大きな病気だったらどうしようと、怖くて行けない場合もあります。それはそれで自分と向き合えない弱さをごまかして、病院に行けない理由を並べ続けてしまう、という負のスパイラル。