テレビ放映から25年超の時が過ぎた今もなお、幅広い世代からの熱狂的な支持を受け続ける『新世紀エヴァンゲリオン』。本作はいかにして、日本アニメ界に革新を与える一作となったのか。

 ここでは、アニメ・特撮研究家の氷川竜介氏による新著『日本アニメの革新 歴史の転換点となった変化の構造分析』(角川新書)の一部を抜粋し、『新世紀エヴァンゲリオン』がアニメファン以外にも受け入れられた理由について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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アニメファンの枠組みを超えたブームの拡大

 なぜ『新世紀エヴァンゲリオン』(95)が熱狂的に受け入れられ、ブームの起爆剤となったのでしょうか。いくつもの原因が複合しなければ大ヒットにはなり得ません。その「新しさ」を分析してみましょう。

 まず作品の構造は、伝統的な「ロボットアニメ」を下敷きにしています。主人公・碇シンジは14歳の少年で、父親の建造した汎用ヒト型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン(略称EVA)のパイロットに選ばれ、背景となる状況や理由を説明されないまま搭乗させられる。謎の敵性生命体“使徒”が次々と出現し、第3新東京市(位置は箱根)に向かって攻めてくる。出撃を強いられたシンジはEVAを操縦し、戦うが……。

 庵野秀明監督は、基本設定、あるいは毎回の展開に関して『マジンガーZ』(72)を参考にしました。さらに『機動戦士ガンダム』(79)の第1話を徹底的に研究したとも明言しています。14歳の少年が巨大ロボットの“力”を手にしたとき、義務や責任とともにどんな心情になるのか、その成長を描く点では古典的なのです。

情報量を増やすリアリズムは、ディテールによる「足し算」の発想

 ただしEVAは機械ではなく、巨大な人型の生命体に外装と制御系を付与したものです。バイオテクノロジーとメカニズムの融合体で、制御系やディスプレイ表示は電子機器の時代を反映しています。マジンガーZのように人が乗りこんで操縦できる、ウルトラマン的な変身ヒーローでもある点で、「ハイブリッドな設定構築」をしたのが特徴で、似たような発想が作品全体に徹底されています。『エヴァ』もまた「世界観主義」の産物です。ただしその構築手法は「緻密さと正確さ」を極める意味でのリアルな方向性とは少し違いました。

 情報量を増やすリアリズムは、ディテールによる「足し算」の発想です。これは、アニメーションが元来スタイルとして備えている「省略と誇張」とは相反するものでした。画面内の情報量を増大させると現実に近づけられますが、あるところに達すると情報が脳負荷をかけ、むしろノイズになってリアリティ(実感)が減衰することがあります。ロボット工学で知られる「不気味の谷」に似た現象がアニメ映像にも起きるのです。