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パチンコ、パチスロなど、過去に類例のないビジネスへ発展

 終始、ファンサービスを手厚くし続けたことも、『エヴァ』の特徴でした。たとえば玩具メーカーのように束縛もあり得る特定のスポンサーが付かず、キングレコード主体のコントロールだったため、放送後はかなり全方位的な商品化が可能となりました。フィギュアにも「解釈」という「原型師の世界観」が宿っています。その二次的世界観が競争を生むことで、観客個々の世界観もほどよく熟成されていきました。

 やがて『エヴァ』のキャラクターたちは、タレントのようにさまざまなコマーシャル、時にはカーレースや公共交通機関にまで飛び出していきます。『エヴァ』の生んだキャラやメカには「誇張と省略の世界観」が宿っているため、たとえば「配色だけでEVA初号機と分かる」「文字の配置だけでエヴァっぽく見える」と、過去に類例のないビジネスへの発展応用にも幅が出来たのです。作品として発展性に幅があった結果、遊興機(パチンコ、パチスロ等)にまで採用され、ふだんアニメを観ないような大衆層にも訴求するよう発展していきました。

 庵野秀明もガイナックスを離れ、2006年に自らカラーという会社を設立し、2007年から2021年までの『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』および『シン・エヴァンゲリオン劇場版』全四部作を生み出します。全額自社の出資でプロデューサーとディレクターを兼任するようになったことで、さらなるサービス精神が発揮されていきます。

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「エヴァンゲリオンシリーズ」が招いた日本製アニメの大きな変化

 通常、プロデューサーは予算管理を徹底し、ディレクターがクオリティアップに注ぎ込もうとするリソースを抑制する。車で言えばブレーキとアクセルの関係です。その両方を1人で兼務し、ビジネスの運用面にも自身の世界観を反映させた。ただし、個人的な満足感が動機ではなく、観客サービスに軸足があります。ですからこれは「作家性」を大きく超えた、哲学に近い「世界観」の発動と理解することも可能なのです。

 2006年以後の動きは、『エヴァ』が発展させたはずの「製作委員会方式の全否定」でもあり、その点でも要注目です。アマチュア・フィルムメーカーからキャリアを出発させた庵野秀明監督が、初心に戻ったものと考えることも可能でしょう。常識を突破するインディーズ的なマインドで作り続けた四部作は、最終的には完結編にあたる『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(21)で興行収入100億円突破に至りました。

「世界観主義」が観客のコミュニケーションを活性化させ、個人消費によるパッケージビジネスを発展させたこと。徹底した情報の取捨選択とその配置がスタイリッシュな映像を生み、動き中心ではない、たとえば背景や光の明暗だけで寓意を感じさせるアニメの様式を開拓したこと。「エヴァンゲリオンシリーズ」は、他にも数多くの新規性をアニメ業界にもたらし、日本製アニメに大きな変化を招きました。

 21世紀に入ってからの20年あまりに起きた変化にしても、その多くは『エヴァ』が生みだしたものが基礎となっています。今はもう目に見えないインフラ的なものとなって、気づきにくいかもしれませんが……。