12月31日、紅白歌合戦の舞台に登場する「ウタ」という架空のキャラクターを、初めて目にする視聴者も多いだろう。でも決して少なくない数、12月はじめですでに1300万人もの観客が、彼女と映画館の中で出会っている。

 8月6日に公開されたにも関わらずいまだ観客動員のトップ10に入り続け、興行収入は190億に迫りつつあるアニメ映画『ONE PIECE FILM RED』の核になるキャラクターがその少女、ウタだからだ。

『ONE PIECE FILM RED』予告編より

日本映画の常識を覆す大ホームラン

『ONE PIECE FILM RED』のヒットは、多くの映画ファンを驚かせている。過去の大ヒットアニメ映画『鬼滅の刃』約400億、『千と千尋』約300億、『君の名は。』約250億と比べても特筆すべきなのは、これが東映配給の映画であるということだ。

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 日本映画界の歴代興行収入一覧を、配給会社とともに眺めてみれば、上位を占める作品のほとんどが東宝配給の作品であることに気がつく。ジブリに新海誠に鬼滅の刃、そしてアニメ映画のみならず、『踊る大捜査線』『花より男子』『世界の中心で、愛をさけぶ』といった実写映画の大ヒットもほとんどが東宝配給なのだ。

 理由はもちろん、東宝という映画会社が全国各地に持つ圧倒的な映画館ネットワーク、公開と宣伝のインフラである。

 東映単独配給で100億に迫った作品を見つけるには、当時の角川書店が全力で支援した1990年の『天と地と』まで遡らなくてはならない。映画『ONE PIECE FILM RED』が多くの人を驚かせたのは、構造的な「東宝ひとり勝ち」が言われて久しい中でも飛び出した、東映単独配給初の100億超え、それどころか200億にも迫る突然変異であり、アニメも実写も、東宝配給でなければ大ヒットにはならない構造があるんだよ、という常識を覆すような大ホームランだからだ。

『ONE PIECE FILM RED』は、「ワンピース」というコンテンツにとっても驚きの一作だ。西暦2000年に公開された最初の劇場版『ONEPIECE』の興行収入は20億。そこから2012年の『ONE PIECE FILM Z』の68億を頂点に数十億の人気コンテンツとして続いてきたが、これまで100億に迫ったことはない。そこに突然190億、観客動員1300万人を突破する、歴代最高記録を3倍近くも塗り替える大ヒットが生まれたのだ。

 長く愛されるアニメ映画のシリーズは多くあるが、これほど長く続いたコンテンツが3年前の前作『ONE PIECE STAMPEDE』の55億の3倍をすでに超えている、こんな突然変異のような「化け方」をするのは記憶にない。あらゆる意味で日本映画の常識を覆すようなヒットを見せているのだ。