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「世界観」次第で見える景色や関係性も変わっていく

「エヴァ世界」は、むしろ「引き算」の発想中心で出来ています。そしてアニメーションで は動きに対して言われてきた「省略と誇張」の概念を拡張している。「引き算」されて生ま れた余白、情報の欠落こそが、テレビシリーズ放送時に『エヴァ』大ヒットの要因になりました。その現れが「謎」として知られる要素で、その最大級のものが「人類補完計画」です。いくつかの組織により「計画」の見え方や遂行方法が異なり、特務機関NERV(ネルフ)の中でもその「計画」を知る者と知らない者がいる。「計画」の解釈は、劇中でも当事者が有する「世界観」次第になっているのです。

 その情報の密度差によってドラマの生まれる点が斬新でした。しかも最終的に発動した「人類補完計画」は、碇シンジが望むかたちに「世界を書き換える」ものでした。結論的には世界の主人公は自分なのだから、その「世界観」次第で見える景色や関係性も変わっていく……。

『エヴァ』のテレビシリーズは、「他人や世界は変えられない、変えられるのは自分だけ」と主張するアドラー心理学のようにも解釈できる物語として、終結に向かいました。ただし最終2話は、通常のアニメ的表現をとらずにこれを提示しています。「人類補完計画」が発動し、主人公・碇シンジが心の内面を再確認しながら、世界のとらえ方を再定義する。そのプロセスが、過去の映像の流用と字幕の応酬で綴られていき、やがてはアマチュアフィルムのような手描き作画となって、人の形状すら記号に変化していく。

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 筆者はこれを「もしアニメそのものが自意識を持っていたとしたら、自身の成り立ちを再確認するプロセス」と解釈しています。実際、これを「アニメ補完計画」として紹介したことさえあります。

「第3次アニメブーム」の象徴

 ですが、当時「すべての謎が解ける」と期待していた視聴者たちにとっては、理解しがたいものでした。ある人たちは意味不明の映像と受け止め、フラストレーションに怒り出してしまう。別の人たちは納得し、あるいはまったく独自の設定的な解釈を示し始める。まだ「パソコン通信」の時代で未熟だったネット世界において、大変な騒動や論議が発生したのです。「ネット炎上」の最初期のものだったかもしれません。

 こうして起きた騒動は、アニメファン以外にも拡大していきます。ミュージシャン、デザイナー、イラストレーター、タレント、映像作家、さらには社会学や哲学を専門とする大学教授などを巻きこみました。これは「受け手が熱狂を拡大させた」点で、70年代の『ヤマト』『ガンダム』のブームに連なるもので、職業人や専門家に波及した点では発展形とも言えます。それゆえ「第3次アニメブーム」の象徴として扱われるようになりました。