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絶えざる反省が手術のクオリティを向上させる――食道がんの名医 大杉治司医師

2018/05/22
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 食道がん手術で胸腔鏡を使う病院が増えている。そのパイオニアが大杉治司医師だ。今では、その実績と実力を専門医の誰もが高く評価するが、当初から認められたわけではなかった。手術の質の向上には何が必要か、聞いてみた。

大杉 治司(東京女子医科大学消化器病センター消化器外科客員教授)
1975年大阪市立大学医学部卒業。同大学医学部第二外科准教授を経て、2010年4月から同大学医学部附属病院教授。2016年3月に同院を退職した。

――胸腔鏡を導入して以来、大杉先生ほどの方でも、手術の録画ビデオを術後に欠かさず見ておられると聞いて驚きました。まず、それからお話しいただけませんか?

 65歳になった今でも、欠かさずビデオを見直していますよ。16年3月に大阪市立大学を退職しましたが、うまくいった手術と反省点のあった手術のビデオを選んで、ここ(東京女子医大)に持ってきました。1年前のビデオを見ると「下手だなぁ」と思って、いまだに恥ずかしくなります。

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 でも、どこが悪かったかを反省することで、初めて技術が向上すると思うのです。今でも去年より確実に上手くなっていますし、習熟度のカーブは急峻になっています。ですから、まだまだ現役は続けられそうです。ですが、上達が見られなくなったら、外科医はメスを置くべきだと思っています。

――今では大杉先生の胸腔鏡の技術を誰もが認めていますが、試み始めた頃は学会で批判を受けたと聞きました。

 そうです。私たちは1995年に胸腔鏡手術を始めたのですが、そのことを学会で報告したら、「食道がんはただでさえ厳しい手術なのに、流行っているからといって、テレビカメラでやるなんて問題だ」と言われて、端から相手にもされませんでした。

 でも、私は厳しく批判されたのが逆によかったと思っています。批判されたことを克服しようという強い意思を持って努力を続けることができたからです。批判のための批判では意味がありませんが、質の向上につながるクリエイティブな批判は大歓迎です。

 それに胸腔鏡手術は術中の様子をすべて録画でき、それを多くの人に見てもらうことができます。開胸手術と変わらない質で手術ができることを見てもらって、他の食道外科医の方々にも納得していただくことができました。

――そもそも、どうして食道がんに胸腔鏡手術を導入しようと思われたのですか?

 私たちが始める3年前の1992年に英国のグループが世界で初めて食道がんの胸腔鏡手術を報告しました。それを知って、これを使えば患者さんの負担を少しでも減らせると確信したんです。