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オリックスの守護神・平野佳寿は本当に“劇場型抑え”なのか? 調べてわかった“背番号16”の凄み

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/05/13
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 相変わらず毎日忙しい日々が続いている。残業が続き、20時前に職場を離れられる日はほぼ存在しない。当然の事ながら、自宅に着いた頃には、プロ野球は中継すら終わっている。野球場に行って、のんびりとオリックスの応援したいなぁ。

 で、行きたくてもいけない野球観戦について考えてみる。そもそも野球を見ていて楽しい時ってどんな時だろう。豪快なホームラン、先発投手の胸のすくようなピッチング、ツーランスクイズやバスターバントの様なちょっとトリッキーなベンチの采配が決まったタイミング。どれもとても楽しいけど、だからといって野球観戦の醍醐味はそれだけじゃない。

ファンの記憶に残る試合で必ず挙がる選手の名前

 例えば、初回からひいきチームの打線が爆発し、先発投手も好投を続け、10点以上の大差をつけて勝った試合を想像してみよう。どの選手も活躍し、事故もなく、たんたんと勝利へと進んだ試合である。勿論、圧倒的な勝ち試合だから楽しくない訳はないし、ファンは満足して家路につくだろう。

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 しかし、そんな試合が、そのシーズンで特に記憶に残る試合になるか、と言えばたぶんそうじゃない。何故なら、大差の試合は「ゲームとしては」決して面白いものではないからだ。そして、それは恐らくどのスポーツでも同じだろう。野球ファン、そしてスポーツファンとは、結構面倒くさい生き物なのだ。

 それでは、人々の記憶に残り、語り草になる試合はどんなものだろうか。誰もがすぐ頭に浮かぶのは、終盤までリードされ、最終回に逆転勝ちを収める展開の試合である。サヨナラホームランやスクイズ、相手チームのエラーによる得点。最後の最後までもつれた挙句、負けに近かった試合が勝ちに転じるのを見るのは、楽しいものだ。そんな時、ファンはいつまでもスタンドに残り、勝利の余韻をかみしめたいと思うに違いない。

 しかし、人々の記憶に残る「面白い」試合はそれだけじゃない。味方チームが序盤から大きくリードするものの、憎らしいくらい強い相手チームにじりじりと追い詰められていく。そして、最終回には大ピンチが訪れ、ファンは天に祈る。しかし、このピンチを抑え投手が辛くもねじ伏せて勝利。「あの試合は本当にやばかった」「でもあの1勝がなければ、今年の優勝はなかったかもしれない」。シーズンが終わった時、そうファンが振り返るのは、意外とそんな試合であったりする。

 そして、そんな試合から家路につく時、多くのファンがその名を口にして語り合うのは、最終回にマウンドに立って、大きなピンチに直面し、しかし何とかその場を凌いでセーブポイントを挙げた、抑え投手の名前である。「おいおい、平野勘弁してくれよ」。「まじ、俺死ぬかと思ったわ」。もし、「オリックスファンが球場からの帰路で名前を挙げる人のランキング」があれば、きっとその圧倒的な1位は平野投手である。

平野佳寿(右)と森友哉 ©時事通信社

平野は本当に「劇場型抑え」なのか?

 そんな平野投手を多くのファンは「劇場型抑え」などと呼んだりする。そのイメージはきっとこうだ。僅差の試合で抑え投手がマウンドに上がる。ファンが祈る中、二度三度ゆっくりとストレッチをした彼は最初の打者を迎え、そして当然の様に打たれる。ランナーは悠々と二塁に到達し、たちまちのうちに同点、更には逆転の大ピンチ。迎える相手の打者は今日当たっている主力打者。それでも抑え投手はもういちどゆっくりとストレッチを繰り返し、そしてゆっくりと投球する。大きな打球がライン際に飛ぶ。悲鳴を上げるファン、見上げる塁審。結果は辛くもファール……。

 とはいえ、それは飽くまで我々の頭の中の話である。では、実際、平野投手の「劇場型抑え」とは、我々がイメージしている様なものなのだろうか。ものは試し、ここは実際の数字を見てみよう。今回使うのは2011年から昨年までの間に、シーズン10セーブ以上を挙げた選手、延べ81人の成績である。このうち平野投手は7回登場し、2014年にはセーブ王にもなっている。

 この平野投手の成績を他の延べ74人の選手と比べてみようという訳である。数字をお借りするのは、「データで楽しむプロ野球」さんのサイト、ここにはUC率、という独自の指標が掲載されているからである。「ホームランが出れば勝敗要素が変動する場面(広い意味での勝負どころ)においての打率、被打率」がそれであり、要は投手が打たれれば、試合が同点、或いは逆転になる展開での打率、被打率である。

 一応研究者なので、この数字、各々の相関係数を計算したり、回帰式もどきを作ってみたりしてみたのだが、学術論文ではないのでその詳しい作業の内容は省略する事にしたい。しかしながら、結果としてわかったのは些か予想とは違う内容だった。

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